2017 Fiscal Year Research-status Report
近代英国のエンブレムと宗教文学の相関性に関する研究
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15K02314
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
松田 美作子 成城大学, 文芸学部, 准教授 (10407611)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エンブレム / 宗教改革 / ディヴォーション / 宗教詩 / プロテスタント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、引き続き17世紀英国のエンブレム作家、フランシス・クォールズ(Francis Quarles)の『エンブレム集』(1634年)が、もととなった「大陸」の宗教的エンブレム、とくにアントニウス・ヴィーリクス2世(Antonius Wierix II)の『愛するイエスの聖なる心』(1585-6年)を、英国の社会的かつ文化的文脈に受け入れられるようどのように改変しているかの調査を進めた。このエンブレム集は、17世紀ヨーロッパで流行したハート(心臓)のエンブレムの代表作であり、そのハートのエンブレム連作は、17世紀の英詩人たち、ジョン・ダンやリチャード・クラショーの作品に影響を与えている。この点を詳しく跡付けることは、本研究のテーマである宗教的エンブレムと文学との相関を明らかにするであろう。今まで考察してきた成果の一部は、"Devotional Emblems and Protestant Meditation in Hamlet"(English Studies, vol.98, no.6, September, 2017), 562-84に組み込んだ。 さらに、17世紀においてクォールズ以上に多作で影響力をもったジョージ・ウィザー(George Wither)の『古今エンブレム集』(1635年)における材源となった「大陸」のエンブレムも調査し、彼のエンブレム以外の作品との関連から、当時の複雑な社会と文学の相関を追求した。 また、7月初旬、フランスのロレーヌ大学で開催された国際エンブレム学会に参加、最新のエンブレム研究の動向に触れ、海外の研究者と意見を交換する貴重な機会を得た。その折、ナンシー市立図書館において、大変充実した16,17世紀の主にリヨンで出版されたエンブレム資料を調査し、収集することができた。フランスにおいて、エンブレム集の出版が盛んであったことを認識することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
16,17世紀は、エンブレム文学の黄金時代であり、特にテーマとしている宗教的エンブレムは、旧教側のイエズス会が大量に作成した。それに対抗して新教側でも多く作成された。本年度、ナンシー市立図書館で収集したエンブレム資料は、量、質ともに充実した内容であるが、その整理に時間をとられ、「大陸」のエンブレムと英国のエンブレムの比較対照を十分行うことができなかった。そのため、予想していたより、進度はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
ナンシー市立図書館での資料収集によって、「大陸」の宗教的エンブレムについての理解を深めることができると考えている。そこで、クォールズとウィザー以外に、英国のエンブレム作家の調査対象を広げ、ジェームズ一世下の英国のエンブレム文学と宗教文学との相関を追求し、その成果をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
16、17世紀の英国のエンブレム作家について、写本も含めて調査する予定であった。とくに、ワシントンのフォルジャー・シェイクスピア・ライブラリー(Folger Shakespeare Library)におけるエンブレム資料を調査する予定であったが、ナンシー市立図書館で収集したエンブレム資料の整理に時間を取られ、フォルジャーが収蔵しているエンブレム写本まで調査できなかった。目下、フォルジャーで調査を予定しているのは、シェイクスピアもみていたジェフェリー・ホイットニー(Geffery Whitney)の『エンブレム選集』(1586年)の写本である。パトロンであったレスター泊のオランダ遠征にあわせて出版された彼のエンブレム選集は、エンブレムという視覚文化がいかに宮廷を中心とした当時の社会に影響力をもっていたかを示すのに適当な資料であり、再版されなかったこの書の写本は、貴重である。とくにフランスの女流エンブレム作家、ジョルジェット・ド・モントネの宗教的エンブレムから借用したエンブレムについて考察し、エリザベス一世の晩年における宗教的エンブレムと文学との相関を明らかにしたいと考えている。
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