2017 Fiscal Year Research-status Report
ワイルド裁判後のイギリス性科学の展開と文学 ーエリス、シモンズ、カーペンター-
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15K02322
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジョン・アディントン・シモンズ / エドワード・カーペンター / ハヴロック・エリス / 『性的倒錯』 / イギリス同性愛史 / オスカー・ワイルド / ワイルド裁判 / イギリス社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、『性的倒錯』事業を協同で推進していたJ・A・シモンズとハヴロック・エリス二人の関係に、エドワード・カーペンターを配置した研究を推進した。これは予想していた以上に意義深い手ごたえを感じた。従来、イギリス同性愛史は『性的倒錯』を準備・刊行したシモンズとエリスの関係でしか論じられることがなかった。しかし二人は同性愛に関しての見解の相違があり、同性愛に否定的な見解をもっているエリスに、シモンズが呼びかけて協力関係を築いていた。ところがここに、同性愛者のカーペンターを配して、カーペンターとシモンズの関係性を書簡などから辿り直すことで、この間の同性愛史を解明するまったく新しい道筋が見えてきた。つまりシモンズはカーペンターに心を割って、エリスにも伝えられない同性愛者としての心情や研究動機などを語っていたことが明らかになったのである。これによって、『性的倒錯』の成立史や、それに込めたシモンズの意図が明らかにされた。 また二人は意気投合し会うことを計画していたが、シモンズの急逝で叶わなくなった。そのせいか、その後のカーペンターはシモンズの遺志を継ぐように、同性愛をテーマにした論考を続々と発表し、またシモンズの古代ギリシャのテーマを展開している。 この研究は、論文としてまとめ、発表した。 他にも、ウォルター・ペイターとオスカー・ワイルドが夏目漱石にいかに影響を与えているかについての研究を、シンポジウムで発表した。 さらに、オスカー・ワイルドの書簡集の翻訳作業を鋭意進行中である。これは書簡のなかでも資料的価値の高いものを中心に選定しており、中公文庫から刊行されることから、一般にも手に取りやすいものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に発表した、ジョン・アディントン・シモンズの自伝を、クラフト・エビングの性科学成立史の文脈から辿り直す研究から発展して、今年度はシモンズとエリスの『性的倒錯』プロジェクトの協力関係に、エドワード・カーペンターという人物を配置することへと展開した。これにより、学術的にも非常に意義深い重要な知見が多数得られてきている。これまでエリスとシモンズの二人の関係からしかアプローチされてこなかった、この時代のイギリス同性愛史の展開に、新しい重要な知見がもたらされることになると考えている。また、前年度のシモンズについての研究を基盤にして、今年度カーペンターの研究へと接合できたことも、有意義であった。古くからの友人関係であったエリスとカーペンター、そして同性愛についての共同事業に邁進していたはずのエリスとシモンズ、そこに同性愛者のカーペンターを配置することで、この時代のイギリス同性愛の歴史研究に陰影にとんだ重要な視座が開けつつあると考えている。ここから得られた知見は非常に学術的な価値が高いので、さらに違う視点から複数の論文にまとめる予定である。 そのほかにも、ワイルドの書簡集の刊行作業も進行中であり、これもこの時代の同性愛史の第一級の資料として世に送り出せる日が近い。
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Strategy for Future Research Activity |
先に書いたように、今年度に大きな進展を迎え、本研究も山場を迎えつつあると認識している。『性的倒錯』についての、エリスとシモンズの共同事業に、カーペンターという人物を配するというアプローチの正しさを確認したので、今年度発表した論文の他にも、もう少し掘り下げて、他の国際的な媒体にも投稿することを模索することになる。 また、刊行されたテクストばかりでなく、書簡資料に直接あたることの重要性も確認したので、今後はさらにこの方向で研究を進めてゆくことにする。とりあえずは、かつてはシェフィールド市立図書館に所蔵されていたカーペンターの書簡の行方が今現在わからないので、この所在を確認して、調査にあたりたい。また、エリス、シモンズをはじめとするこの時代の性科学者の手稿資料を多数所蔵するテキサス大学図書館に出向き、調査研究したいと考えている。 カーペンターについては日本にもゆかりが深く、かなり早くから翻訳され紹介されたり、あるいはカーペンターが日本の事物を紹介するなどしているので、こうしたテーマで一般書籍を執筆する可能性も模索してゆく。
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Causes of Carryover |
昨年度後半、家族が病に倒れ、長期にわたって海外に渡航することを差し控えなくてはならない状況となったため、予算を計画通りに使うことができなかった。
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Research Products
(2 results)