2016 Fiscal Year Research-status Report
近代初期イングランドにおける祝祭と文学の関係をめぐる文化史的研究
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15K02326
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 教授 (70299121)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エリザベス朝文学 / 法学院 / 祝祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、エリザベス朝末期における法学院の祝祭と同時代の演劇の影響関係を精査した。特に、自己愛という主題が1590年代後半から1600年代初頭にかけての祝祭や文学作品で反復されていることに着目し、それが宮廷、法学院、商業劇場という3つの異なる場で演劇化される経緯を分析した。 前年度の研究では、1595年にエセックス伯ロバート・デヴルーがエリザベス一世の馬上槍試合の余興として披露した仮面劇『愛と自己愛について』が1596年から1597年にかけてミドルテンプル法学院で催された祝祭『愛の王』でパロディー化されていることに着目し、騎士道精神をめぐる宮廷祝祭と法学院祝祭の方向性の乖離を指摘した。この知見を踏まえた上で、今年度はさらに両祝祭に共通して見られる愛と自己愛という主題が、同時代の文学作品で反復されていることを明らかにし、その文化的・文学的意義を検証した。1600年にチャペル・ロイアル少年劇団によってブラックフライアーズ座で上演されたベン・ジョンソンの喜劇『シンシアの饗宴』と同時期に執筆・上演されたウィリアム・シェイクスピアの喜劇『十二夜』が共に自己愛という主題を扱っていることは従来より指摘されているが、その背景にはジョンソンやシェイクスピアと法学院生との知的交流があることは看過される傾向がある。本研究では、法学院生が執筆した詩作品や祝祭がこれら商業演劇に与えた影響を分析した上で、自己愛の表象に関するジョンソンとシェイクスピアの相違点を考察した。研究成果の一部については、平成29年度に実施される二つの研究会において口頭発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はシェイクスピア没後400周年に当たり、日本英文学会関西支部大会における「シェイクスピアの遺産―没後400年を記念して」に司会・講師として登壇したため、当該研究とは異なるテーマに関する研究を行う必要が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
1590年代以降、ミドルテンプル法学院出身の詩人として活躍したサー・ジョン・デイヴィスの詩作品、及び彼が執筆に携わった祝祭の調査を行う。デイヴィスは、二流詩人として現代ではあまり注目されることのない作家であるが、最晩年のエリザベス一世の表象という観点に立てば、興味深い様々な作品を残している。具体的には、1596年に出版された詩作品『オーケストラ』、1599年にエリザベス女王に献呈された『アストライアの賛歌』、そして1602年におけるヘアフィールドの祝祭である。一連の作品はいわゆる「エリザベス崇拝」の文学として位置づけられる傾向があるが、法学院祝祭やベン・ジョンソンの喜劇と関連づけて分析すると、晩年のエリザベス一世の宮廷政治への批判が浮かび上がってくる。デイヴィスの法学院出身者特有の風刺性を照射すると共に、エリザベス朝末期の祝祭が帯びるに至った新たな特性を精査する。
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Research Products
(2 results)