2017 Fiscal Year Research-status Report
近代初期イングランドにおける祝祭と文学の関係をめぐる文化史的研究
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15K02326
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 教授 (70299121)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 法学院 / エリザベス朝末期 / 祝祭 / エドマンド・スペンサー / サー・ジョン・デイヴィス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、エリザベス一世の政治的求心力に翳りが見えた1590年代に風刺文学が興隆した点に注目し、法学院の祝祭文化をバックボーンとして胚胎されたサー・ジョン・デイヴィスの小叙事詩『オーケストラ』を反宮廷文学という文脈で分析した。処女王崇拝に沸く宮廷文化に対する批判的なまなざしがこの時期の法学院文学に共通して見られる特徴であることは従来の研究で既に指摘されているが、デイヴィスの詩作品の風刺性はこれまで注目されることはなく、その作品分析は十分になされていない。本年度の研究では、デイヴィスが1590年代後半に発表した3つの詩作品の分析を中心として、反宮廷文化の機運が、祝祭や手稿の回覧といった法学院特有のホモソーシャルで閉鎖的な空間で執り行われる文芸活動を経た上で、印刷出版を通して広く拡散していく過程を跡づけた。特に、表面的にはエリザベス崇拝を標榜する作品であるデイヴィスの『オーケストラ』、ベン・ジョンソンの風刺喜劇『シンシアの饗宴』、エドマンド・スペンサーの叙事詩『妖精の女王』に見られる鏡のモティーフを取り上げながら、それが女王を賛美する一方で、君主の自己愛の危険性を警告する点において、神話化・脱神話化の両義性を有している点を明らかにした。反宮廷文学は、ともすればエリザベス一世の死後、すなわちジェイムズ朝特有の現象であると捉えられる傾向があるが、その萌芽は明らかにエリザベス朝末期に見られ、その変革的な動きは法学院発の文学と密接に連動している。君主崇拝の言説が空洞化し、風刺詩が他ならぬ宮廷祝祭の場においても浸透する過程を照射した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は、学外研究制度によって研究に専念できる環境を得られたため、前年度までの研究の遅れを取り戻し、当初の計画に沿って、順調に研究を進めることができた。特に、法学院祝祭の伝統が、法学院生による活発な詩作活動と密接に連動していた点に着目し、1590年代に一世を風靡した小叙事詩やエピリオンに通底する宮廷風刺を分析した。小叙事詩の風刺性については従来より指摘されているが、本年度の研究では、その風刺性が法学院という閉鎖的なコミュニティにおける祝祭文化の中で育まれた過程を詳らかにすると共に、法学院詩人の知的ネットワークが同時代の演劇文化に与えた影響も併せて考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
法学院の祝祭文化と1590年代の演劇文化、特に喜劇作品との関連性を考える上で注目に値するジャンルに中傷詩がある。たとえば、ウィリアム・シェイクスピアの『十二夜』の祝祭性の重要な要素を占めている〈マルヴォーリオいじめ〉は、集団社会において笑いや冗談が他者をこらしめて排除する一種の懲罰として機能しうることを端的に示している。この劇のサブプロットに顕著なアグレッシブで偏向的な機知は、本劇が上演されたミドルテンプル法学院の知的・精神的風土と密接な関係を有している。本年度の研究では、〈マルヴォーリオいじめ〉に唄が用いられている点に着目し、これを中傷や誹謗をめぐる法学院及び宮廷の文化的背景と絡めて考察する予定である。
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Research Products
(4 results)