2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02327
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
和田 葉子 関西大学, 外国語学部, 教授 (00123547)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中英語 / 写本 / ラテン語 / アイルランド / MS Harley 913 / 仏語 / フランシスコ会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイングランドの周縁地域で書かれた中英語の作品の優秀性とそれらを研究する意義を広く知らしめ、中世英文学研究に貢献することを目的とする。 ウェールズ、スコットランド、アイルランドで書かれた中英語の作品が収録されている写本をリストアップしながら、1330年頃、アイルランドで筆写されたLondon, British Library, MS Harley 913 がどのような目的で書かれ、写字生はどのような人物であったのかを考察した。そのためには、この写本に収められているラテン語と仏語による作品も視野に入れる必要があった。そこで、今年度は(1)ラテン語で書かれたミサのパロディ、(2)ラテン語のなぞなぞ、そして、(3)記録された英語による最古の子守唄とそのラテン語訳の3種類の作品に焦点を合わせた。その結果、(1)は中世ヨーロッパの教会で行われていた愚者の祭りに関係していたと思われること、(2)は、古英語やラテン語で書かかれた伝統的ななぞなぞの一種のパロディだと考えられることがわかった。(3)も含め、これらはすべて、この写本の写字生と読者層が、ラテン語の素養のある、ユーモアを理解する聖職者であった可能性を示唆している。 中世英文学はこれまでイングランドで書かれた作品群だという前提に立って研究が進められていたが、実際には、ウェールズの境界地域や、アイルランド、スコットランドで生まれたり、筆写された中英語の作品を収録した写本も多く存在する。非常に優れていても、「辺境」で生まれたという理由だけで、中心的な研究対象として扱われてこなかった作品に正しい評価を与えることは、中世英文学研究においても、英文学史を見直す意味でも、非常に重要である。また、政治・宗教の当時の状況を作品に巧みに織り込んだ作品の研究は、歴史学にも貢献できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウェールズ、スコットランド、アイルランドで書かれた中英語の作品が収録されている写本をリストアップしながら、これまで本格的な研究がされたことのなかったLondon, British Library, MS Harley 913に注目し、特に、この写本がどのような目的で、どんな写字生によって筆写されたのかを考察した。この写本は、1330年頃、アイルランドで筆写されたことは知られているが、収められている個々の作品については、これまで、海外でも本格的な研究はほとんどされてこなかった。今年度は3つのラテン語を含む作品に関する研究成果を発表した。また、夏季休暇を利用して、ダブリンにあるアイルランド国立図書館、ウォーターフォードの市立図書館、アメリカ合衆国のノースカロライナ大学図書館において、MS Harley 913と密接に関連する資料を閲覧し、版権が許す限り、コピーをして帰国後も日本国内でリサーチが続けられるようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
London, British Library, MS Harley 913に収録されている作品のジャンルが様々で、統一性に欠けると考えられてきたが、注意深く読んでみると、当時の社会背景が巧みに織り込まれ、写字生の強い個性と編者としての好みを反映している作品であることが徐々にわかってきた。それを解明するには、英語だけでなく、ラテン語、仏語を含む全作品を一つずつ詳しく研究する必要がある。今後も、MS Harley 913の作品の精読を続け、最終的には収録されている全作品を通して見えてくる写字生と読者層について明らかにしたい。また、アイルランドで筆写されたPiers PlowmanのCテキストを収めたOxford, Bodleian Library, MS Douce 104を、アイルランドの当時の社会状況のコンテキストにおいて、詳しく調査する。さらに、ウェールズ国境地域のすぐ近くで書かれた Ancrene Wisse (隠遁修道女のための手引き)の作者/写字生についても、これまで用いられてこなかった手法によって、その人物像を明らかにする計画である。 今年度と同様、これからも夏季休暇を利用して、アイルランド国立図書館、ウォーターフォード市立図書館、大英図書館、ケンブリッジ大学図書館で、研究を支えるさらなる資料を見つけるべく、調査研究を進める。現地では、コピーライトの許す限り、資料をA4のサイズでコピーし、帰国後も効果的に研究が続けられるようにする。研究成果は国内外に発表する。
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