2015 Fiscal Year Research-status Report
中世イギリス神秘主義文学における対話と読者に対する説得的ストラテジーに関する研究
Project/Area Number |
15K02330
|
Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
吉川 史子 広島修道大学, 商学部, 教授 (50351979)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 神秘主義文学 / 中世英文学 / 説得的ストラテジー / 修辞疑問 / 巡礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
実施計画の通り、ノリッジのジュリアンの『神の愛の啓示(Revelations of Divine Love)』(以後『啓示』)と『隠遁修道女戒律(Ancrene Wisse)』のテクストにどのように対話が組み込まれているのかを Taavitsainen (1999) に基づいて調査、比較し、その類似点と相違点が、両作品に共通して説得的ストラテジーが多用される理由や、『啓示』には読者に対する修辞疑問がほとんど見られないこととどう関連しているかを明らかにする研究を実施した。その成果は、まず “Dialogues and Rhetorical Questions in Middle English Religious Prose” の題目でポーランド、ヴロツワフ市の Philological School of Higher Educaton で行われた The 9th International Conference on Middle English (ICOME 9) で5月3日に発表し、その後論文にして、同学会が募集した論文集に応募した。論文もすでに採択決定の知らせを受けており、現在出版に向けて編者とやりとりをしているところである。 また、米国の学術誌 Magistra に投稿していた論文 “Julian of Norwich and the Medieval Rhetorical Arts of Preaching” を編者と何度かやりとりして完成させた。この論文は、Vol. 21, No. 1, Summer 2015 の号に掲載された。 また、「国際共同研究加速基金」の募集があったため、本科研費による研究を海外との共同研究に発展させる計画を立てて応募したが、残念ながら採択されなかった。 また、The Mystical Theology Network という学会が Art and Articulation というテーマで1月に大会を開催すると知り、“Pilgrimage Description in The Book of Margery Kempe and Medieval Travel Journals, Pilgrim Guides and Maps: An Identification of Similarities and Differences" の題目で応募し、1月9日にオックスフォード大学の St Hilda's College で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、「国際共同研究加速基金」に応募するため、早急に研究計画について考え直したり、The Mystical Theology Network 主催の大会での発表のために、『マージェリー・ケンプの書 (The Book of Margery Kempe)』で言及されているイェルサレム周辺とローマの地名や史跡と、Matthew Paris の地図などに描かれたこれらの都市周辺の地名や史跡、中英語期の巡礼ガイドに掲載されたこれらの都市周辺の地名や史跡を比較する作業を加えたりしたため、非常に忙しい一年になったが、もともとの研究において、一年目についてはあまり欲張らずに控えめな計画をたてていたこと、ICOME 9 で発表するために平成26年度末からすでに『啓示』と『隠遁修道女戒律』の対話の研究に取り掛かっていたこともあり、予定していた研究計画については順調に進めることができた。二つのテクストに組み込まれた対話に関する研究の成果を近いうちに論文として発表できるよう作業を進めている。 また、先に言及したように、夏の終わりに The Mystical Theology Network が Art and Articulation というテーマで平成28年1月に大会を開催することを知り、以前大英図書館で Matthew Paris の地図を見て以来温めていた、『マージェリー・ケンプの書』と聖地イェルサレムの地図や巡礼ガイドとの比較という、もともと平成27年度には予定していなかった関連研究にも着手することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、当初の研究計画の通り、『マージェリー・ケンプの書 (The Book of Margery Kempe)』(以後 BMK)の対話の分析を行う。この作品は、自伝的な要素が強く、マージェリーと神との対話だけでなく、様々な社会的地位の人との対話が含まれているため、分析に多くの時間がかかると予想している。ICOME 9 で発表した際に、『隠遁修道女戒律 (Ancrene Wisse)』(以後 AW)のテクストにおける二人称代名詞(ye/thou)の使い分けについて、ミュンヘン大学の Hans Sauer 先生から質問と助言をいただいた。発表後、AW のテクストを調べてみたが、AW は時期が早すぎて親密度 (solidarity) による違いが見られないことに気がつき、むしろ以前やりかけてそのままになっていた BMK できちんと調査するべきだと思ったので、まずそれから仕上げることにしたい。 その二人称代名詞の調査をすると同時に、BMK のテクスト中の対話的要素と『啓示』、AW のテクスト中の対話的要素を、それぞれの作品の主たる主張の違いと照らし合わせて分析し、BMK の作者マージェリー・ケンプがその主張に関して読者を説得するためにどのような文体的ストラテジーを用いてそれを達成しようとしているのかを明らかにする研究も併せて進めるつもりである。 論文集への採択の知らせをもらっている論文“Dialogues and Rhetorical Questions in Middle English Religious Prose”については、きちんと完成させ出版したい。
|
Causes of Carryover |
次年度の「支払い請求作成書」を提出する学内締切日2月18日の時点で、関連論文の PDF ファイルや写本の写真ファイルを学会や調査研究先に持って行くためのポータブルハードディスクを今年度の予算内で購入すべきかどうか検討していたが、大容量のものは高額であるため、その時点の残額では購入できなかったので、科学研究費助成事業に関する研究を補助しているひろしま未来協創センターの担当者と相談した結果、いま少し待って、次年度の予算と合わせて購入するほうが良いという見解に至り、その残額を次年度の予算と合わせて執行し、最適な機器を購入することにした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連論文の PDF ファイルや写本を撮影した写真のファイルを蓄積して学会や調査研究先に持って出るための機器を購入する予定である。
|
Remarks |
平成 27 年度の研究成果はまだ反映されていない。
|