2016 Fiscal Year Research-status Report
中世イギリス神秘主義文学における対話と読者に対する説得的ストラテジーに関する研究
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15K02330
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
吉川 史子 広島修道大学, 商学部, 教授 (50351979)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神秘主義文学 / 中世英文学 / 二人称代名詞 / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、昨年提出した「実施状況報告書」の「今後の研究の推進方策等」の欄に書いた通り、『マージェリー・ケンプの書』に表された対話の中で用いられる二人称代名詞の研究を進めた。しかし、その過程で、予想していたよりも時間がかかる研究であることに気がついた。当初の予定では、夏頃までにその研究の成果を示すことができると考えていたが、中英語期の二人称代名詞の研究は、通時的言語学の観点から数多くなされており、参照すべき論文が非常に多く、先行研究の調査だけでも長い時間を費やすことになってしまった。また、人称代名詞の研究者が多いだけに、研究発表への応募時等に、二人称代名詞の研究であるということを全面に出しすぎると、本研究は神秘主義作品の文体研究の一部として、二人称代名詞に着目しているのであって、二人称代名詞の用法の通時的な変化を解明しようとするものではないことを査読者や発表の聴衆にうまく伝えられないと感じた。そのため、発表概要の説明の執筆にもこれまでの成果発表時以上に気を配らなければならなかった。 予想以上に長い準備期間がかかったが、年末の 12月14日から16日にグラスゴー大学で行われ Mystical Theology Network主催の学会大会 Mysticism in Camparative Perspective への応募には間に合い、 12月15日に“Address Pronouns in The Book of Margery Kempe”の題目で研究発表を行うことができた。 この研究発表の後は、『マージェリー・ケンプの書』の対話を含む部分のコミュニケーション目的 (communicative purposes) の構成分析に着手したが、年度の終わりまでには、この分析についての成果は出すことができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」の欄でも述べたように、『マージェリー・ケンプの書』に表された対話の中で用いられる二人称代名詞の研究成果をなかなか出すことが出来ず、予想以上に二人称代名詞の研究だけに時間をとられてしまい、当初計画していた対話全体のコミュニケーション目的 (communicative purposes) の構成を分析する研究にかける時間が短くなってしまった。従って、『マージェリー・ケンプの書』における対話の研究については、平成29年度も引き続き遂行することになる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、引き続き『マージェリー・ケンプの書』における対話の分析を進めるとともに、当初の研究計画で予定していたウォルター・ヒルトンの『完徳の階梯 (The Scale of Perfection)』とリチャード・ロウルの『生活の形 (The Form of Living)』における対話と、これらの作者が用いる説得的ストラテジーの調査分析にも着手するつもりである。 具体的な研究成果の発表の予定としては、平成28年1月に Mystical Theology Network が主催した Art and Articulation と題された学会大会で研究発表した 『マージェリー・ケンプの書』と中世の旅行記や巡礼案内の書との比較についての研究をさらに発展させ、マージェリー・ケンプの巡礼を描写した部分におけるコミュニケーション目的 (communicative purposes) の構成分析を加えたものを5月11日から14日に米国ミシガン州カラマズー市の Western Michigan University で行われる The 52nd International Congress on Medieval Studies で発表する予定である。 また、異端を疑われる恐れがあると思われるテクストに共通して見られるポライトネス・ストラテジーについて、5月31日から6月2日にかけてノルウェーのスタヴァンゲル大学で行われる The Tenth International Conference on Middle English で研究発表する予定である。 その後は、これらの発表で得たコメントを反映させて論文に執筆し、その成果を発表する努力をするとともに、ウォルター・ヒルトンの『完徳の階梯』とリチャード・ロウルの『生活の形』で同様の分析を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」の欄で述べた通り,平成28年度中は、二人称代名詞の先行研究の調査に大変長い時間を使うことになった。そのため、国際学会での発表や、具体的な調査のための資料収集をする時間が少なくなり、結果的に予定していた予算を年度中に使うことができなくなった。この遅れを取り戻すために、平成29年度は、『マージェリー・ケンプの書』の対話に関する調査研究を仕上げるとともに、成果発表を前年度予定していた分まで含めて行い、遅れを取り戻すつもりである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず、5月31日から6月2日にかけてノルウェーのスタヴァンゲル大学で行われる国際学会大会The Tenth International Conference on Middle English (ICOME 10)での学会参加と研究発表のための旅費・滞在費・学会参加費に昨年度の残額から20万円を使用させていただきたいと考えている。また、以前「国際協同研究加速基金」に応募した際に研究協力をお願いしたTuija Virtanen 教授がいらっしゃるオーボ・アカデミー大学に 2018年2月に出向き、ジャンル分類に適用できる語用論的分析の最新理論について直接助言を受けながら、日本では手に入りにくい北欧の研究者による研究資料を同大学やヘルシンキ大学で収集したいと考えているので、その旅費と資料費に昨年度の残額から20万円と、今年度の予算額の一部を使用させていただきたいと考えている。
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Remarks |
平成28年度の研究成果はまだ反映されていない。
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