2016 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期トランスパシフィック・アメリカ文学研究―制度形成と美的形態の動態的交渉
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15K02335
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井上 間従文 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (50511630)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
越智 博美 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (90251727)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 冷戦 / トランスナショナル / 南部文学 / 米軍統治期沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は井上、越智ともに冷戦期の日米、および米軍統治下の琉球列島にて文学作品の形式と、文化統治をめぐる諸制度との間に見られた緊張関係を明らかにする研究を行った。 まず井上は日米による「沖縄返還」交渉期に突如浮上する「日米友好」という言説およびその言説が可能とする諸制度の創設を国境横断的な「戦争の枠組み」(バトラー)における「警察・内政(police)」の編成の一部として批判的に考察した。またその只中で沖縄の詩人清田政信がイメージ化した「コミューン」という概念の示す共同性の持つ国境横断的な意義について検討した。また清田における「オブジェ」概念と、ほぼ同時期にアメリカで活動した詩人チャールズ・オルソンが原爆投下後の太平洋地域において思考した「オブジェクト」概念のあり方が、ともに国民主体性や労働する従属主体性のあり方を超え出る人々やさらには物とのつながりを指し示したことを英語論文にて検討した。加えてオルソンとブラックマウンテン大学などで知己であった画家ベン・シャーンにおける原爆後の人体フォルムの形象の変遷についても論考を執筆した。 越智は引きつづき第2次世界大戦後のアメリカ文学について、国立公文書館にて収集した一次資料を基にしながら課題に取り組んだ。冷戦期の日本の文化を形作ることへのアメリカ文学の参与の仕方をめぐる論考を発表したほか、ナショナルな想像力にいかに人種が関係するかという本課題の問題意識を生かしながら大統領が登場する南部小説を分析した。また映画007シリーズで日本を舞台にしたYou Only Live Twiceを冷戦のツーリズム文化、および冷戦期特有のオリエンタリズムという文脈より考察して論集に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
井上は今年度の研究成果をDiscourseやAmerican Quarterlyといった米国の学会誌に論文として発表しており、また日本語でも『現代思想』、『宮古島文学』、その他共著論文集にて成果を公表することができた。また来年度より理論的なまとめ作業を行うにあたっての実証的リサーチにも進展があった。越智は米国の日本における文化政策と、日本におけるディシプリンとしての「アメリカ文学」成立との密接な関連性を考察する論考を学会誌American Reviewに掲載し、またこうした内容をさらに掘り下げて英語圏研究者・読者に向けて発信する論考をOxford Research Encyclopediaに掲載した。実証調査、アーカイブ調査なども順調に進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
井上、越智ともにこれまでの研究成果を冷戦期文化統治、生政治と「国際政治」、政治形態と美的フォームをめぐる考察などの観点のもとに、理論と実証を往復するかたちでまとめる作業を行う。 また最終年度である来年度には、井上、越智ともに太平洋を横断する国民主体形成の系譜を辿る試みの一つとして、ハリウッドおよびアメリカのアヴァンギャルド映画におけるジェンダー化、人種化された諸主体の表象と形象の変遷を辿る研究を行う。
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Research Products
(15 results)