2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカ禁酒小説/運動におけるジェンダーギャップの研究
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15K02338
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
森岡 裕一 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (20135635)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 禁酒物語 / 家庭小説 / 感傷小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
夏期の海外出張では、バンクーバーのブリッティッシュ・コロンビア大学、およびシアトルのワシントン大学にある図書館において資料調査・収集を行った。とくにT.S.ArthurとMary Chellisに関する、主としてマイクロフィルム化された貴重な資料を閲覧できたことは大きな成果である。たとえば、Larisa AsaeriによるChellisの論文やTEMPERANCE DOCTOR(1836)をはじめとするそれまで入手できなかった作品を閲覧あるいはコピーできたことは有意義であった。また、シアトルの古書店でMEMOIRS OF WATER DRINKER(1837)初版本を入手できたことも予想外の成果である。 春にはニューヨークの公立図書館、コロンビア大学内の図書館において同様の資料調査・収集を行った。T.S.Arthurに加え、同時期を代表する禁酒小説家Lucius M.Sargentらの珍しいテクストを閲覧、コピーできたことが成果である。とりわけ、今後研究の中心になるはずの19世紀家庭経営論の資料として、ArthurのTHE ANGEL OF THE HOUSEHOLD(1856)、WOMAN'S TRIALS(1851)などは、Harriet B. Stoweの家庭論との対比研究をする際の貴重な資料となる。ニューヨーク滞在中にペンシルバニア大学英文学科教授デヴィッド・エスピー教授と意見交換する機会をもち、研究方針の妥当性を確認することができたことも大きい。 現地での資料調査と同時に、入手した資料の分析も進行しており、その成果はすでに論文にまとめられ近々学術雑誌に発表する予定である。また、ニューヨークでのフィールドワークに基づいた経験をいかして文献に表れたニューヨークのイメージを論文の形でまとめ公表したことも本研究の副産物と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象である禁酒物語はテクスト入手が困難で、アメリカ各地の図書館に点在する資料に直接あたるしかなく、拠点となる機関に直接赴きコピーをとるか、書物の保存状態によりコピー不可の場合は筆写やメモをとるしかなく、たびたびの出張が必要となる。その意味で、海外出張で資料調査を行ってこれたことは、研究のための基礎資料を得るうえで重要である。これまで相当数の文献が収集できたことは大きな達成と言える。また、それらの資料分析も進んでおり、禁酒物語におけるmanlinessをテーマとした論文はすでに完成しており、近々、学術雑誌に発表予定である。また、拠点機関であるニューヨーク公立図書館などでの調査のためしばしば滞在した経験を生かし、文献に表れたニューヨークのイメージを考究した論考を口頭発表および共著の形で公表できたことなど波及効果も大きい。 禁酒物語関係の資料はおびただしく選択的に調査・収集しているが、時間の関係で調査できなかった重要文献についても所在の確認は進んでおり、次回の出張で入手する予定である。研究期間内での最大の成果をあげるための計画もすでに策定している。
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Strategy for Future Research Activity |
禁酒物語に関しては量的アプローチが重要であり、そのため対象資料は多ければ多いほど研究の精度が向上すると思われる。したがって、これまで同様、アメリカ現地での資料調査・収集を継続しなければならない。収集した資料の分析についても同様である。その際、力点を男女の禁酒物語作家の対比へ移し、また、とくにT.S.ArthurとHarriet Stoweの家庭経営論を比較考察することで、ジェンダーギャップの問題に迫りたい。その成果を2本ほどの論文にまとめたあと、これまで発表した分とあわせて、19世紀禁酒物語研究の集大成となるべき一冊の研究書にまとめあげ世に問いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
関西外国語大学の旅費規定にしたがい航空機運賃については大学が支給する個人研究費を当てたため、予定より支出額が少なくなっている。また、図書館等でコピーを取る際、領収書の入手ができないことが多く、その場合は私費にてまかなっている。そうした科研助成金によらない出費もあり、予想を下回る予算執行となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も当該年度と同様の事業を計画しているが、パソコン等備品で不足するものを購入するなど当該年度で必要のなかった支出の計画もあり、また、文献収集費用の増大も見込まれるため、次年度分として請求した助成金と合わせ有効活用を計画している。
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