2017 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学における平和への戦略ーー第二次世界大戦がもたらした文学的影響
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15K02340
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
新田 玲子 広島大学, 文学研究科, 教授 (40180674)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ボネガット / 片淵須直 / 猫のゆりかご / この世界の片隅に / 戦争 / 平和 / ポストモダン |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は「スローターハウス5」(1969)に先だって書かれたカート・ボネガットの『猫のゆりかご』(1963)において、いかに戦争が強く意識されているか、さらには一見SF的な途方もない作品構成にこらされた、ボネガットならではの平和のためのポストモダン的戦略を論じ、それを第34回国際文学心理学会で口答発表した。またこの機会に研究者仲間から得た情報や意見をもとに論文を推敲し、『広島大学大学院文学研究科論集』第75巻に投稿した。 これと並行し、2016年に公開された片渕須直監督・脚本のアニメ映画、『この世界の片隅に』の、第二次世界大戦中の広島と呉を題材にした作品を分析した。というのも、この作品では戦争における日常に焦点を当てて、当時の生活や街並みを克明に再現することで、戦争で失われた日々の生活を無言のうちに伝えることで、反戦のメッセージを伝えている。そして、主人公を世間知らずのまま結婚した、田舎育ちののんびりした性格に設定することによって、作品を優しく柔らかく、時には笑いをこめて仕上げ、戦争から遠く隔たった若い世代の関心を引き、共感を呼ぶ、ヒット作になった。しかしながら、当時の生活や街並みの克明な記述とは対照的に、戦争や原爆の描写には大いに不正確で、時にはあり得ない状態、嘘、さえ混じっている。また、主人公のセンチメンタルな戦争の捉え方により、感情的に流されて非常に危険な戦争肯定に至っている点も窺える。なぜこうした矛盾が容認されたのか、アメリカ文学における戦争を題材にしないポストモダン作品と比較しつつ、『アニメ「この世界の片隅に」の功罪――新しいアメリカ平和文学研究者の立場から』としてNew Waveに公表した。 この研究については2018年度の国際文学心理学会で、さらに議論したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究予定の材料の大まかな枠組は研究済みであり、個々の作家の作品についての個別研究を深めることで、研究全体の深みを増して行く段階にあるから。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度はまず、『この世界の片隅に』を材料にしながら、現在、戦争を直に題材にしたならばどういう状況を考慮しなければならないか、国際文学心理学会を通して、国際的レベルで議論し、考察してゆきたい。 また、平成28年度、ランスで開催された国際学会で「サリンジャーと戦争」についての口答発表した際に、『ライ麦畑でつかまえて』においてどれくらい戦争体験が反映しているか、具体的な分析をしてもらいたいという意見が多数出た。当初の予定ではこれはこの研究に含めていなかったが、サリンジャーに関しては新しい伝記資料も出てきているので、この点をさらに論考してゆきたい。 その上で、平成31年度が最終年度にあたるため、それに向けて研究の全体的なとりまとめができればと思う。
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Research Products
(3 results)