2015 Fiscal Year Research-status Report
<免疫の詩学>の構築ー聖パトリックの煉獄巡礼地をモデルにして
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15K02344
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
木原 誠 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (00295031)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 免疫 / 巡礼 / 煉獄巡礼 / マリアの顕現 / 聖パトリック / ノックの巡礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
身体における自己の主体は脳にではなく、臓器機能の役を免れ、身体の周縁を巡る漂白の細胞、免疫(インミュニティ)に宿る。ここに身体における縁と無縁の逆説の関係がある。本研究は、この免疫学の命題を詩学に導入し、文化の主体のありかを、コミュニティ内部から排除され、周縁 に置かれた「インミュニティ(免疫)=アジール」にあると措定することで、マクロ・中央集権・ リアリズムの世界観を、ミクロ・周縁・虚構=無視・排除されたものの方から逆説・異化し、新 しい詩学(文化・文学)の理論を構築する。対象とする地域はオクシデント/日が沈む地の表象を 負うヨーロッパの極西・アイルランドの周縁、ヨーロッパ独自の死生観、煉獄の概念が誕生・形 成された世界唯一の煉獄巡礼の地、ドニゴール・ダーグ湖の小島=聖パトリックの煉獄である。 以上の仮説を検証していくために、27年度は、ダーグ湖の煉獄巡礼を中心に、アイルランド全土に点在する巡礼地を調査していった。その目的はアイルランド固有の巡礼のあり方を身体内の免疫システムに見立てて探ることであった。そのため、8月3日~27日までの間に、1) GlendaloughにあるSt Kevin所縁の聖ケヴァン修道院跡(Round Tower, St Kevin’a Kitchen)をStationとして東西に延びる巡礼地、2) Dingle半島にあるSt.Brigid’s Well(Our Lady Wellと呼ばれ、奇跡の泉として知られる)の巡礼地、3) Knockのマリア降臨の地の巡礼、4) Croagh Patrickの山岳巡礼地、5)Lough Dergの湖の巡礼(One Day Retreat参加)の現地調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度に、すでに本研究が目指す「免疫の詩学の構築」に関する単著を出版することができた(A4版、620頁)。これが可能となったのは、24年度~26年度に亘る挑戦的萌芽研究によってすでに得ていた知見の蓄積があったからである。ただ同時に、この研究成果をさらに現地調査により検証することによって、修正すべき多くの課題も見出された。アイルランドの巡礼の個々のあり方が、各々異なり、それを一元化して述べることはできないという結論を得たからである。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴィクター・ターナーによれば、「反構造/リマノイド」としての巡礼のあり方は、4つに大別されるという。prototype,arcaic,medieval ,modernである。アイルランドには最初の一つを除く、三つのタイプの巡礼がある。しかも、各々のタイプの巡礼が他のタイプの要素と歴史的に混ざり合いながら、複雑な「反構造体」を形作っている(生成させている)。このようなアイルランド独自の巡礼が生じる背景には、かつてculdeeと呼ばれたアイルランド独自の<ノマド的=免疫的>修道院(極西教会)のあり方があると考える。この点を現地調査と歴史資料の分析をとおして検証していくことが今後の課題となるだろう。
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Causes of Carryover |
旅費が当初計画より少額になったので。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費として本年度に使いたい。
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