2016 Fiscal Year Research-status Report
モダニズム文学形成期の英米における慶應義塾の介在と役割
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15K02349
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
巽 孝之 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30155098)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 横浜正金銀行 / 永井荷風 / モダニズム / ロマンティシズム / 三田文学 / 巽孝之丞 / サクヴァン・バーコヴィッチ / ジークムント・フロイト |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者がモダニズムと慶應義塾の連動について深く研究したいと思うようになったきっかけのひとつには、慶應義塾大学文学部が支える『三田文学』創刊者であり同教授も務めた稀有の作家・永井荷風を長く研究してきた文芸評論家・末延芳晴氏のさまざまな仕事に啓発されたことがある。荷風は慶應義塾に勤務したのみならず、その父親が申請者の祖父とも関係浅からぬ横浜正金銀行に勤務し、彼もその恩恵を被っていたからである。その意味で、2016年度にはほかならぬ末延氏が集英社より新著『慶應義塾大学文学部教授・永井荷風』を刊行するため三田キャンパスの図書館調査を行ないたいと申し出られたので、これを好機と、まさにこの科研プロジェクトの一環として、2016年11月23日の夕刻、南校舎472番教室にて、氏の講演会「永井荷風と慶應義塾」を開催し、学部生、院生諸君はもとより三田文学会の会員諸氏の積極的な参加を得て、充実した討議を行なうことが可能となった。 加えて、申請者は20世紀初頭に花開いたモダニズムを理論的に深める一環として、2016年 11月12日にはカリフォルニア州パサデナで開かれた第114回太平洋古代近現代語学文学会 (PAMLA)にてシンポジウム「フロンティアとしての精神分析」に参加し、フロイト『モーセと一神教』をめぐる考察を行なった。加えて、19世紀ロマンティシズムとモダニズムの論理的連環をめぐっては、2017年1月17日に関西大学元教授・入子文子氏を迎え講演「ホーソーン『緋文字』研究をめぐる新展開ーーバーコヴィッチを超えて」を行なっていただき、活発な質疑応答から多くの収穫を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画というのは時に予定通りには行かないものの、時に思わぬ僥倖が飛び込んで来ることもある。前掲末延芳晴氏はニューヨーク生活が数十年に及んでいた為、その永井荷風研究は、これまでにも夏目漱石など明治を代表する文学者がいかに外国体験をしたかをたえず意識するもので、申請者の祖父のロンドン時代についても徹底調査を行なうものであった。したがって、氏の研究と申請者の研究が共振する可能性は大いにある。ここで注記しておきたいのは、この研究を進めるうちに、ほかならぬ雑誌『三田文学』の編集体制が変わり、本年2017年1月より、申請者自身が編集委員に名を連ねることになったことだ。したがって、末延氏自身と共同して、今後の『三田文学』において永井荷風特集号を組む可能性も現実味を帯びている。 もうひとつ、博物学者・南方熊楠と祖父・巽孝之丞が環境保護問題をめぐって関わっていた可能性については、広島大学名誉教授・伊藤詔子氏の率いるエコクリティシズム研究学会からの要請を受けて、共同研究の結実である共著『エコクリティシズムの波を超えて』に一章分の論考「巨木伝説ーーヨセミテの杜、熊野の杜ーーを寄稿しているので、近く刊行されるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年2017年には第11回国際ハーマン・メルヴィル会議がロンドンで開かれるため、その折に大英図書館や日本協会などで調査を進める予定である。また、夏にはパリを含むヨーロッパ出張の予定があるため、その折に祖父が開設に尽力した日仏銀行についても資料収集したい。この銀行は名のみ知られているが、それに関するまとまった歴史は刊行されていないからである。
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Causes of Carryover |
本来ならばこの研究の肝であるロンドンやサンフランシスコ、はたまた和歌山県に出張して現地調査をするつもりであったが、ほかならぬ共同研究者のひとり末延芳晴氏が次著のために京都から上京し講演してくださることになったので、いささか予定の出張費が軽減した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年と同じく、こうした地道な調査の成果を公表するには雑誌や共著だけでは不十分であり、幸いわたしのゼミが運営しているアメリカ文学研究のウェブサイト Cafe Panic Americanaが国際的な交流の場になっているため、そこに取材のインタビュー原稿や中間報告を発表していきたい。そのプロセスにおいて、ハイテク機器の操作やテープ起こし、原稿の編集などで学生のバイト代や謝礼が生じると思う。
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Remarks |
平成28年度の研究成果である共著『エコクリティシズムの波を超えて』が年度中に出版される予定であったが、遅れている。
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[Book] The Cambridge History of Postmodern Literature (Co-Written)2016
Author(s)
Joe Bray, Stephen J. Burn, David Ciccoricco, Theo D'haen, Martin Dines, Thomas Docherty, Robert Eaglestone, Amy Elias, Andrew Epstein, Wendy B. Faris, Ellen G. Friedman, Amanda Gluibizzi, Elana Gomel, John Hellmann, Andrew Hoberek, John Johnston, Brian McHale, Michael Mercil, Len Platt, Takayuki Tatsumi, 他
Total Pages
539 (405-418)
Publisher
Cambridge University Press
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