2016 Fiscal Year Research-status Report

植民地のモダニズム的世界観から大西洋を経て出現する南アフリカ人作家の国家意識

Research Project

Project/Area Number	15K02351
Research Institution	Tokyo Woman's Christian University
Principal Investigator	溝口昭子東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (00296203)
Project Period (FY)	2015-04-01 – 2018-03-31
Keywords	南アフリカ文学 / 国家意識 / モダニズム / 植民地近代 / トランスアトランティック
Outline of Annual Research Achievements	28年度に取り組むべきSchreinerとPlaatjeの第二次ボーア戦争を扱った著作の比較は関連資料の収集が思ったほどに進展しなかったため、論文の形にするにはまだ時期尚早と判断し、資料が揃いつつあった29年度の計画、すなわち「白人国家」南アフリカにおける「性と人種の問題」についてのSchreinerとPlaatjeの取り組みについての研究を先に進めた。Plaatjeの「性と人種」についての著書The Mote and the Beam (1921)は米国滞在中に書かれ、当時のアフリカ系米国知識人の影響を深く受けていることが、先行研究によって判明していた。そこでPlaatjeと比較しつつSchreinerの死後出版された小説 From Man to Man (1926）について、その「性と人種」の表象についてアフリカ系米国知識人W. E. B. Du Boisの著書The Soul of Black Folk (1903)が与えた影響について研究を行った。その結果、アフリカ人を植民地主義の犠牲者ととらえつつも彼らを生物学的他者としてみなしていたSchreinerが、Du Boisの影響によって白人男性による黒人女性への性的搾取および暴力、そしてその結果誕生する子どもという看過できない「黒人と白人が家族として存在する」問題を再検証した痕跡を証明することができた。その結果は紀要論文 "Transatlantic Re-writing of South African Sexual/Racial Violence in Olive Schreiner's From Man to Man "にまとめた。尚、南アフリカ国家理解に書かせないその多言語状況を考察した論文"What Languages Do Aliens Speak?"も国際学術雑誌に掲載された。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 3: Progress in research has been slightly delayed. Reason 28年度のボーア戦争に関するプロジェクトに関連した資料収集がなかなか進まず、そしてツワナ語の翻訳者の仕事もかなり遅れたため、より資料が揃っていた29年度の「南アフリカの性と人種の問題」に関する研究遂行に途中で切り替えた。それによって29年度の研究はそれなりに形にはできたものの、結果的に全体的に論文のその質と量に影響を与えてしまった。
Strategy for Future Research Activity	29年度のプロジェクト遂行に切り替えたために一次断念した28年度の資料収集を29年度に精力的に行い、翻訳委託も早めに行うことでより豊富な資料をもとにSchreinerとPlaatjeのボーア戦争に関するより深みのある論考を構築することが可能であり、遅れを取り戻すことが可能であると考える。
Causes of Carryover	28年度の資料収集を途中で中断しすでに資料が整っていた29年度の研究に着手し、年末から執筆に入っていたため、その時期に新たに高額な書籍等を購入する予定が生じず、また、ツワナ語の文献の翻訳の謝金の支払い額が確定するまで時間がかかったため、それを考慮し支出を控えていた結果、次年度使用額が生じる結果となった。
Expenditure Plan for Carryover Budget	資料収集のための出張費および資料購入費は確保しつつもツワナ語の翻訳に関する出費が今後も生じる可能性があるので早めに依頼し予算執行に務める。その上で必要な図書を購入し学会への参加や発表を積極的に行う。英語での口頭発表や論文発表に際してはnative speakerの添削を依頼し謝金を支払う。