2017 Fiscal Year Research-status Report
植民地のモダニズム的世界観から大西洋を経て出現する南アフリカ人作家の国家意識
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15K02351
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
溝口 昭子 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (00296203)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ボーア戦争 / 国家意識 / アパルトヘイト / 大英帝国 / 植民地 / 近代化 / 南アフリカ / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
Sol Plaatjeの第二次ボーア戦争および第一次世界大戦を扱った著作における国家意識創出について、資料を読み込み基礎的な研究を行なった。その際に、彼が英語と自分の母語であるツワナ語を通して自分が発行した新聞( Koranta ea Becoana 、Tsala ea Becoana 、そして Tsala ea Batho)において、同胞の間にアパルトヘイトへの批判精神や近代的な国家意識の涵養をいかに試みたかに注目し考察した。また同時に彼が母語の書き言葉を「南アフリカの白人専門家」の手を借りずに確立し同胞に浸透させることで、植民地主義に抗する形での彼らの近代化を促進させようとしていたこと(シェイクスピア作品の母語への翻訳もその一環)にも注目した。その結果の一部を『東京女子大学比較文化研究所紀要』(第79巻)に掲載された論文「ソル・プラーキのシェイクスピア劇『間違いの喜劇』のツワナ語翻訳『間違いの上の間違い』を巡る政治学」(2018)として発表した。 また、この時期に彼が自分の同胞を、南アフリカ国家の「前近代的な国民未満」的存在として表象し、共闘する「おなじ人民」としてはみなさなかったこと、他の植民地における大英帝国臣民の参戦状況を見据えつつ戦争を同胞の「国民への昇格手段」として捉えていたことにも注目した。そこに存在する彼自身の階級意識が生み出す政治的限界を考察し、彼の後に続く南アフリカの他のアフリカ人作家とも比較して包括的に考察した。その成果を論文「「国民未満」から対自的民衆へ」として完成させ、月曜社の『多様体』1号(2018)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を進めるうちに、Sol PlaatjeやSchreinerの国家意識創出はボーア戦争体験だけでなく第一次世界大戦の間接的な体験も大きく影響しており、当初考えていたよりはるかに大きなテーマであり必要とされる文献も膨大であることが判明した。その膨大な文献(Plaatjeが発行した新聞を含む)に関しては収集が進み、それを読み込み、その一部を論文の形で発表しつつあるが、さらに多くの文献を読み込み推敲を重ねる必要がある。それゆえに、当初目的とした、最終的な包括的な考察まで至り、それを論文の形にするまでには至っていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
資料収集はかなり進んでいるので、文献読み込みを更に推し進め、包括的な研究の成果を論文の形にまとめ、学術雑誌等に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
論文に必要な資料収集はほぼ満足できるレベルまで達しているが、その読み込みおよび、それらを駆使したより包括的な論文作成および発表がまだ十分になされておらず、ゆえに継続して研究を続ける必要があり、その際の出費(必要に応じて資料収集、完成した論文の英語母語話者による英語チェックや学会発表費用、論文投稿に関連した)がまだ見込まれることが理由である。今後の使用計画としては特にボーア戦争および第一次世界大戦と南アフリカとの関連を扱った資料をさらに読み込みつつ必要に応じて資料を収拾し、完成したSchreinerとPlaatjeの国家意識創出に関する英語部論文は英語母語話者に英語チェックを依頼し、そし関連学会にて発表し学術雑誌に投稿する予定である。
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