2015 Fiscal Year Research-status Report
英語圏カリブ・アフリカ文学の監獄と移動(不)可能性
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15K02352
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
吉田 裕 東京理科大学, 工学部, 講師 (20734958)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 英語圏文学 / カリブ文学 / アフリカ文学 / 監獄 / 移動 / 大衆 / 表象 / 冷戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、本研究課題の中心的なテーマである「カリブ・アフリカ文学における監獄と移動(不)可能性」の手前にあり、本課題そのものを支える問題意識をより明確にできた。とりわけ、脱植民地期における民衆や大衆という集合性がいかにして表象=代行されてきたのかという問いが、監獄と移動という問題系により深く関わっていることを認識できた。この問いは、2015年10月に日本英文学会関東支部のシンポジウムにて提起した。 監獄と移動そして、民衆や大衆についての表象のより深い結びつきに気づいたきっかけの一つが、出会いの場の裏面として、移動の制限があるという、当然といえば当然のような事実の確認であった。特に、1951年のマッカラン法の重要性である。この法律により、カリブ海地域の労働者及び作家らの多くが、合衆国でなく、英国への移住を選んだという事実がある。他方で、法の施行以後、合衆国内の黒人知識人の海外への移動が制限されてきた反面、50年代半ばに、バンドン会議や黒人作家芸術家会議など、肌の色の有徴性を共通項とした越境的な国際会議が開催されてきた。 さらに言えば、この法を始めとする移動の制限は、環太平洋的な冷戦体制とも関わる。朝鮮戦争と沖縄の軍事化強化を経て、ベトナム戦争に至るまでの米軍支配網の強化・再編成の一部として捉えることもできる。軍事ネットワークという回路を通じて、逆説的に、それまでは無かった類の「出会い」を可能とした(例えば、C.L.R.ジェームズのメルヴィル論における朝鮮戦争への言及)。 未消化の課題としては、監獄の中より書かれたものから見た集合性、そして監獄そのものと植民地化のプロセス、あるいは、そのプロセスの継続としての監獄体制といった、核心的な問題へのアプローチが足りないことである。2016年度は「移動(不)可能性」よりも、「監獄」に比重を置いて研究を進める必要があるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗状況が遅れている理由は、資料収集が進んでいないことである。関連書籍や論文については、適宜集めているので問題はないのだが、ニューヨーク公立図書館が所蔵する資料については、まだアクセスできていない。とりわけ、2015年度は、学会発表と関連論文の執筆に追われていたため、渡航する時間を確保することができなかった。2016年度夏から秋にかけて、渡航することにより、資料探索を行い、C.L.R.ジェームズのメルヴィル論がどのように改変されてきたかについて、米国における検閲状況への調査も含めて、可能な限り明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本年度前半期は、課題に関連した発表を2か所で行う。以下が原稿執筆、発表予定である。一つ目は、昨年度の学会での発表原稿を改稿する。ジョージ・ラミングのOf Age and Innocence(1958)における民衆の表象と知識人の関係性に焦点を当てて論じる。ラミングの代表的なテキストの翻訳とともに2016年度中に出版予定である。 二つ目は、七月半ばのコーネル大でのワークショップである。こちらでは、C.L.R.ジェームズのメルヴィル論を題材として、監獄におけるジェームズの朝鮮戦争の受け止め方と、沖縄の歌人新城貞夫の作品を比較検討する予定である。ジェームズと新城の試みを文化翻訳の概念を更新する分節化(articulation)の試みとして論じる。 三つ目は、七月末に東京外国語大学アジア・アフリカ研究所にて、雑誌『プレザンス・アフリケーヌ』に掲載された第一回黒人作家芸術家会議における英語圏作家の論考に焦点を当てて発表を行う。米国による冷戦初期の文化政策の影響と移動可能性、不可能性が中心的な問いとなるため、本課題を進めるためには重要な機会となるだろう。 以下は予定である。先ほど触れたように、遅くとも秋(10月、11月)までには、ニューヨーク公立図書館にて資料探索を行い、その成果を、コーネル大での発表原稿とともに修正改稿し、2017年3月までには英語で原稿としてまとめ、論文を投稿する。考慮すべき点としては、監獄文学の系譜的な研究、そして、関連する法律についての調査も含め、理論的な部分はまだ詰めるべき余地があるので、そちらにも十分時間を取れるよう配慮したい。そのため、本課題の研究結果を、最終的に論文として投稿発表する時期は、もう少しずれ込む可能性がある。
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Causes of Carryover |
当初旅費として計上していたものが、学会発表などが重なったために予定が立たず、研究調査のため渡航することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
早めに予定を決め、研究調査のために渡航する期間を確保する。
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