2015 Fiscal Year Research-status Report
ミューア『アラスカの旅』における科学と文学の融合に関する研究
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15K02357
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
柴崎 文一 明治大学, 政治経済学部, 教授 (90260124)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ミューア / アラスカの旅 / 科学と文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ミューアがアラスカ探検に赴くことになった具体的な経緯について考察した。 ウルフは 、1879年の6月7日からヨセミテで行われた日曜学校の特別講演会で、シェルダン・ジャクソンが行ったアラスカに関する講演に接したことが、ミューアにアラスカへの探検旅行を思い立たせた契機であるとしている。しかしミューアがアラスカに向けてサンフランシスコの港を出港したのは、当時の新聞記事によれば6月20日であり、それから12 月まで約半年間に渡るアラスカ探検の旅を、如何に旅慣れたミューアであっても、思いついてから僅か十日間で準備をし、実行したとは考え難い。なおミューア自身は、『アラスカの旅』で、「1879年の5月」にサンフランシスコ港を出港したと記しており、この点も、上記のヨセミテで行われた講演会との整合が取れない。 さらにこの船にはシェルダン・ジャクソンら長老派の宣教師も乗船しており、ミューアは彼らと共にアラスカに赴いているのだが、『アラスカの旅』の記述からは、ジャクソンら一行とは偶然同じ船に乗り合わせたようにしか読み取れない。 またアラスカに対するジャクソンとミューアの関心を比較してみても、両者の間に親密な関係が醸成されたとは想像し難い。ジャクソンは南西部の諸州で活躍した長老派の指導的な宣教師であるのと同時に、民俗文化財の収集に極めて熱心な人物であった。この民俗文化財という観点から、彼はアラスカに強い興味をもっていたと言われている。しかしミューアにとって「民俗文化財の収集」という行為は、「略奪」にも等しいものであり、こうした両者が出会うやいなや意気投合し、僅か十日間で滞在資金や準備を整えて、共にアラスカに赴くことになったとは、とうてい想像し難い。 本年度の研究では、残されたミューアの日記や書簡、当時の新聞記事などを調査することによって、以上の諸点に関する多角的な考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、上記のような、ミューアがアラスカ探検に赴くことになった具体的な経緯に関する考察に加え、ミューアの自然思想における「科学と文学の融合」にも検討を進める予定だったが、この点に関する考察には、若干の遅れが生じている。その主な理由は、当時の新聞記事などの追加資料の入手に手間取ったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
ミューアは、ヨセミテ渓谷の形成に関するホイットニーの説を論駁するために、1874年から75年にかけて、シエラネバダの氷河に関する7編の調査・研究を発表しているが、この氷河研究は科学的・地質学的観点からの記述であり、この研究に、文学的要素は多くない。一方で、ミューアは同時期に、後の『カリフォルニアの山々』へと結実する、シエラネバダの自然を詩情豊かに描いた多くのエッセイも著している。しかしシエラの氷河や山々を題材としたこれらの研究や作品では、まだ「科学と文学の融合」には至っていない。申請者は、『アラスカの旅』こそ、ミューアが「科学と文学の融合」を目指した作品に他ならないと考えている。 「科学と文学の融合」は、バートラム以来、ソローやミューアを経て、カーソンにおいて完成する、アメリカン・ネイチャーライティングにおける最大のテーマの一つである。しかし、これまでのネイチャーライティング研究では、この流れの中でミューアの果たした役割を適切に評価することが希薄であったと申請者は見ている。『アラスカの旅』には、「氷河」という存在をめぐって、ミューアが科学的記述と文学的描写を融合させようとしている様子が、ありありと示されている。ただし『アラスカの旅』は未完の遺稿でもあるため、この「融合」が完成しているとまでは言えない。そこで第2年度の研究では、作品の解釈に加え、草稿やメモ類の分析も交えて、総合的で多角的な視点から、ミューアの目指した「科学と文学の融合」の試みを読み解いて行きたい。
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