2017 Fiscal Year Research-status Report
異文化空間としてのトランスパシフィック―アジア系アメリカ文化の太平洋横断的展開
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15K02362
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
麻生 享志 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80286434)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トランスパシフィック文化 / 戦争の記憶 / 文学と人種・エスニシティ / ヴェトナム系アメリカ文化 / アジア系アメリカ文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 第89回日本英文学会(5月21日於・静岡大学)でのシンポジウム「自伝(的)文学と人種・エスニシティ、フィクションとノンフィクションをつなぐ」において、ヴェトナム系アメリカ人小説家ラン・カオの小説『蓮と嵐』を中心に戦争の記憶と歴史について招待発表を行った。 2. 早稲田大学にて 6月3・4日に催されたアメリカ学会第51回年次大会を、開催校責任者として大会全般の運営を取り仕切った。加えて、本大会における海外研究者を交えたラウンドテーブル "The Theater and the Theatrical: Reconsidering American “Drama” in the Age of Trump" において招待発表を行った。 3. 6月発刊の The Japanese Journal of American Studies No. 28 (2017) に英語論文 “Ethics of the Transpacific: Dinh Q. Le, San Art, and Memories of War” (pp. 3-23) を発表した。 4. 8月7日から16日にかけ、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス地区を中心に現地・資料調査を行った。主たる調査地および内容は以下の通り。1)サンタモニカの倉庫を用いた Shoshana Wayne Gallery をはじめとするギャラリー群を視察; 2)Orange County Museum of Artにて特別展 "California-Pacific Triennia" を視察; 3) Oceanside Museum of Art にて特別展 “Meaning in Bronze”、“A Time to Heal”を視察; 4) Japanese American National Museum にて特別展 "New Frontiers" を視察; 5) University of California, Los Angeles, East Asian Library において、1970年代アジア系アメリカ運動関連の資料調査; 6) University of California, Irvine, Languston Library 内の特別資料室にて、ヴェトナム系移民の社会・文化的活動を示す資料を調査、また同図書館特設展示室にてヴェトナム系移民の戦後の歴史を展示した "After-Lives of War"を視察。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
11月に親族に不幸があり、本研究代表者は法定相続人代表者として多くの時間と労力を要すことになった。よって年度の後半は研究に取り組むことが難しい状況が続き、全体として研究の進捗に影響が出ることになった。具体的には、年度の前半には 2件の招待発表、および 1件の論文発表と概ね順調に研究成果を公表してきたが、研究時間を十分にとれなくなった年度後半は予定していた単著の執筆・刊行準備を思うように進めることができなくなった。結果として、本科研費研究期間を一年延長する手続きをとった。2018年度には、当該研究書の執筆を終わらせ、年度内の刊行を目指して準備を整えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究の最終年であることから、これまで論文・研究発表を通じて公表してきた内容に加え、現地・資料調査で得た知見をもとに、研究書「リトルサイゴン、ヴェトナム系アメリカ文化の現在」の執筆・刊行を年度内に行う予定である。 本書については、序と結論を含め6章ないし7章の構成を予定している。ヴェトナム系アメリカ人移民・難民の文化と芸術を取り扱う本書では、いわゆる1.5世代アーティストに加え、2世アーティストの動向にも注視していく予定である。扱うジャンルとしては、本研究者の立脚点である小説や詩、さらには近年注目を集めるグラフィックノベルを中心とする文学作品を含むことはもちろんであるが、近年ヴェトナム系に限らず多くのアーティストが参加・活躍するデジタルメディア・アートやインストレーション・アートなど、より現代的なアプローチを含むこととする。そして、こうした文化・芸術の展開に、リトルサイゴンを中心とする移民・難民コミュニティや大学、美術・博物館といったインスティテューションが果たしてきた社会的役割を研究対象に含む。 ヴェトナム系アメリカ文化に関する日本国内における包括的な研究が、これまでほぼ皆無であった点を考慮すれば、こうしたプロジェクトの遂行には困難な点も多々予想される。とりわけ移民・難民共同体が文化・芸術の展開に果たしてきた役割を調査するには、アメリカ現地においてすら資料等に限りがあり、実証性を伴った研究を行うことの難しさが指摘される。その一方で、本研究者がこれまでに築いてきた国内外における研究ネットワークの存在、また複数回におよぶ現地・資料調査で得たデータ・知見等を十分に駆使することができれば、多少の困難は克服可能と考える。
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Causes of Carryover |
年度後半に親族に不幸があり、本研究代表者は法定相続人代表者として多くの時間と労力を要することになった。結果として研究の進捗に影響が生じることになり、予定していた資料等の購入、学会出席ができなくなった。延長年の2018年度には、研究費残額を資料の購入を中心に充当していく予定である。
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