2015 Fiscal Year Research-status Report
アジア系アメリカ演劇における日本演劇および日本文学の要素についての研究
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15K02366
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
古木 圭子 京都学園大学, 経済経営学部, 教授 (80259738)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日系アメリカ演劇 / 時空間の超越 / 古典の翻案化 / 暴力とトラウマ / 亡霊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、21世紀アジア系 (主に日系) アメリカ演劇における日本演劇および日本文学の要素を網羅した戯曲の内容およびその上演形式や形態について研究調査を行い、アメリカ演劇と日本演劇、および日本文学作品の接点を探ることを目的としている。 平成27年度は特に、Miyagawaの代表作Thousand Years Waitingの題材である『源氏物語』および『更級日記』と、演劇における語りとアクションの関係について研究を進めてきた。本戯曲においては、『更級日記』の作者が『源氏物語』を読む行為と、現代女性が『更級日記』を読む行為が同時進行している。そこで、物語を読む行為、およびその行為が呼び起こす記憶が、時空間を越える要素として本作でどのように機能しているかについて考察を行い、その結果を『近現代演劇研究』に論文として発表した。さらに『源氏物語』と『更級日記』に対する知識と理解を深めるため、古典物語文学に関する文献を収集し、調査を行った。また、平成28年2月に、過去に上演されたMiyagawaの戯曲について、ニューヨーク公立図書館において資料収集を行い、Miyagawa氏へ直接インタビューを行い、未出版の戯曲の台本、過去の上演DVD等も本人を通じて入手し、研究を進める上での貴重な手がかりを得た。その後もMiyagawa氏とメール通信を行い、2016年9月実施予定のMiyagawa氏の戯曲や劇作についての講演および共同のシンポジウムの実施について具体的な計画を進めている。 また、新たなトピックとして、Miyagawa作の人形浄瑠璃『女殺油地獄』の翻案化戯曲であるWoman Killerを取り上げ、演劇およびパフォーマンスにおける「暴力」の解釈について考察を始めることとし、英米文化学会の分科会である比較文学会の例会において発表を行い、共著の出版計画を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、当初の計画よりも1年早く Miyagawaにインタビューを行い、未出版の戯曲台本や過去の上演のDVD等も本人より入手し、研究が当初の予定よりも進展していると考えられる。Miyagawaが過去の日本文学、演劇を多くみずからの戯曲に取り入れている理由について、インタビュー以前は曖昧であった点も確認した。また、本研究では、Miyagawaの戯曲の特質をアメリカ演劇史の枠組みでとらえ、Off-Broadwayを中心とする実験的アメリカ演劇の流れを汲む劇作家と位置付けているが、その点についても本人の意向を確認できた。 さらに、当該年度の研究成果を2本の論文にまとめた。『近現代演劇研究』掲載の論文においては、Thousand Years Waiting における「語り」と「読書」という要素に焦点を当てて論じた。さらにAALA Journal掲載の論文においては、清水邦夫の『楽屋』(1977)の翻案化戯曲であるThe Dressing Room(1992)を取り上げ、過去の作品の「翻案」という観点から本戯曲を分析した。『楽屋』ではAnton ChekhovのThe Seagull (『かもめ』1896) がその題材となっており、Miyagawaの戯曲にもChekhovの翻案化がみられること、亡霊の登場やそれによる時空間を超える試みが両者に顕著にみられることから、清水邦夫とMiyagawa の戯曲の関連性を探った。さらに『源氏物語』、『更級日記』、近松門左衛門の『女殺油地獄』(1721)をMiyagawa がモチーフとしているところから、日本演劇およびアメリカ演劇研究者、劇作家本人、本研究応募者によるシンポジウムやリーディング上演などの計画も可能であると考えた。平成28年9月にMiyagawa氏を日本の学会に招聘し、本人の講演および共同のシンポジウムを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は日本伝統演劇や日本古典文学の要素を取り入れたMiyagawaの戯曲の意図についてさらに研究を進め、平成28年9月日本アメリカ演劇学会の大会で予定されているMiyagawa氏の講演および共同のシンポジウムについて具体的に計画を進める。また、6月にストックホルム大学にて開催されるInternational Federation for Theatre Researchの大会においてMiyagawaの戯曲における「語り」の要素について発表予定である。 平成28年度は、主にトラウマ体験と暴力という観点から同劇作家の戯曲を読み解くこととし、その対象として、トラウマ体験と暴力をテーマとした戯曲I Have Been to Hiroshima Mon Amour、近松門左衛門の『女殺油地獄』の翻案化戯曲Woman Killer を採り上げる予定である。近松門左衛門の作品との比較を試み、主人公Clayが、亡き父Walterおよび過去に生きた多くの人々のトラウマを背負った亡霊として描かれているという観点から分析する。さらに現代アジア系アメリカ演劇における暴力とトラウマを主たるテーマとして研究を展開してゆきたい。 また、Miyagawaの戯曲を「家族劇」を解体する試みとして分析する。Woman Killerに描かれているのはHenry, Elizabethという両親およびTimothy, Clay, Amyという子供たちを主要人物とし、伝統的アメリカの家族像を彷彿とさせるが、ClayによるAnneの殺害はその伝統的家族像を破壊するものであり、それは父Walterの恨みを晴らす行為でもある。つまり、Miyagawaの戯曲に多くみられる、亡霊、時空間の超越、過去の文学作品の翻案、そして暴力とトラウマという要素はみな「今、現在」に生きる一個の家族のみを描くことを拒むことに繋がるからである。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、主にChiori Miyagawaの戯曲の調査とインタビューのために米国ニューヨーク市への出張を実施した。当初の計画では平成27年8月での出張を予定していたが、勤務大学の業務のために8月の出張実施は困難であり、比較的航空運賃の安い時期である2月に出張を実施したために、使用計画よりも実施額が少ない結果となった。また、国内の学会においても、平成27年度は、所属する学会の大会(日本アメリカ文学会、アメリカ演劇学会およびアジア系アメリカ文学研究会など)が関西方面に集中する傾向があったために、当初の計画よりも出張費が抑えられたという理由もある。また、ニューヨーク出張におけるMiyagawaへのインタビュー後、未発表の原稿やDVDなどの資料を本人から提供していただく機会を得て、資料収集費を抑えることができたことも、次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、大きな使用計画として、Chiori Miyagawaを9月に東京で開催される日本アメリカ演劇学会に招聘し、本人の講演および共同のシンポジウムの企画があるので、その費用として計上する予定である。具体的には、米国ニューヨーク市から本人を招聘するための航空券代金、学会期間中の本人の宿泊費などである。 また、6月13日から17日までストックホルムで予定されているInternational Federation for Theatre Researchの大会において、Chiori MIyagawaの戯曲における「語りと記憶」というテーマで発表を予定しており、その参加費及び渡航費に使用する予定である。 その他国内における学会への出張費、資料費などに使用する計画である。
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Research Products
(4 results)