2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02374
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Research Institution | Kurashiki City College |
Principal Investigator |
安達 励人 倉敷市立短期大学, 保育学科, 教授 (60249555)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 視聴覚翻訳 / 映画 / 沈黙 / ジャンル |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づいて,まず,アメリカ映画35本と日本映画25本およびその日英翻訳版の合計120バージョンを取り上げ,日米映画それぞれの起点音声(翻訳する前のセリフと音響)と目標音声(翻訳した後のセリフと音響)における沈黙の数と位置の変化を,ジャンル別に比較分析した。その結果,文化的に異質な要素である沈黙を排除しようとする同質化の方略が,言語面だけでなく音声面においても用いられていることと,その頻度がジャンルによって異なっていることを実証した。これは,ローカライゼーションの視点から,翻訳の等価性や適切さ,効果を検討する等,AVTにおける音声研究を進める意義と可能性に一つの根拠を与え得る成果であると考える。この成果の一部を,「日米映画吹き替え版における沈黙数のジャンル間比較」を執筆し,『倉敷市立短期大学研究紀要』第61号,pp. 1-9,2018年(単著)として発表した。 この研究結果を受けて,様々なジャンルの中からアニメーション映画における沈黙の脚色に着目し,基礎データの入力と分析に取り組んだ。具体的には,日米アニメーション映画から各10作品を取り上げ,対象となる言語を7か国(英語<アメリカ版>,ドイツ語<ドイツ版>,フランス語<フランス版>,スペイン語<スペイン版>,韓国語<韓国版>,中国語<中国版>,および日本語<日本版>)に拡大した。それぞれの原作版と翻訳版を合わせた約140バージョンの音声データベースの構築を進めた。これらのデータは,本件の成果の一つとして構築を目指している「日米映画の沈黙データベース」に不可欠な要件であり,今後のより発展的な研究に供する基礎資料としての意義があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体の進捗状況としては,まず,大量の音声データの抽出と,作品における沈黙のマッピングを国別・ジャンル別に行う作業に関しては,おおむね当初の計画に沿って進んでいる。 次に,自作の国別・ジャンル別データベースの活用状況であるが,平成28年度には国別比較を行い,今年度(平成29年度)はジャンル別の比較研究へと進めてきたところである。具体的には,アメリカ映画35本と日本映画25本およびその日英翻訳版の合計120バージョンを対象に,ドラマ14(アメリカ8,日本6),SF15 (アメリカ10,日本5),ホラー13 (アメリカ8,日本5),アニメーション18(アメリカ9,日本9)の沈黙の数の変化を,主に量的な観点から分析した。その結果,翻訳過程での沈黙数の増減には,言語間の差だけでなく,同じ言語内であってもジャンル間の不均衡があることを表す実証データを得た。このデータは,翻訳過程で音声に加えられる脚色は,翻訳先の言語や文化に起因することに加えて,ジャンルや作品の特性からも大きな影響を受けていることを示すものである。 さらに,上記のデータベースに基づく量的分析を深化する研究として,質的分析にも取り組んできた。沈黙を機能別に抽出・分類し,個々の特徴の記述,沈黙と脚色との関係性や法則性の考察,およびその効果の検討などを目的に事例の検討を積み上げているところである。本件は今年度中に学会での口頭発表を行うとともに論文にまとめ刊行する計画であったが,個別事象の記述と関係・周辺領域の調査結果に基づく内容分析に予想外に時間を要したことから,計画のこの部分に遅延が生じた。しかし,次年度(平成30年度)に学会での口頭発表および論文の刊行を行う予定で準備を進めており,当初に計画した日程にほぼ追いつくことができる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
データベースを活用した量的研究の成果を,沈黙の機能に着目した質的分析へと進めることを目的に,まず,平成29年度に実施したジャンル比較の継続研究として,沈黙が最も多かったジャンルである邦画ドラマに焦点を当てた研究論文をまとめる。日本語から英語に翻訳される過程で,音響効果や背景音楽,パラ言語の操作などの脚色によって,沈黙が機能別にどのように処理されているかを記述的な方法を用いて明らかにするとともに,言語面と非言語面の翻訳方略の関係についても検証する。沈黙の脚色に関しては,新たな音声を付け加えることで原作の沈黙を埋めるという手法は先行研究においても確認されていたが,原作には存在しない新たな沈黙が作り出されるという事例も見られることから,本研究を通して,沈黙と脚色との関係性における新たな知見を得ることが期待できる。 次に,日米比較から得られた成果を多言語比較へ応用する研究にも着手する。平成29年度に構築した日米アニメーションの原作と吹き替え版120バージョンのデータベースを活用し,量的分析と質的な事例研究の両方の方法を用いて,沈黙の機能別と脚色との関係性や法則性について考察する。その成果を次年度の学会で口頭発表するとともに,学会誌に投稿する計画である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に予定していた学会での口頭発表および論文の刊行を延期した結果,研究費に未使用額が生じたが,平成30年度に実施予定であることから,当該未使用額を次年度に計上するものである。当初の研究計画のうち遅れている部分の費用に充てることになるため,全体の研究計画に変更は生じない。
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Research Products
(1 results)