2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K02379
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| Research Institution | Kyoto University |
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Principal Investigator |
田口 紀子 京都大学, 文学研究科, 教授 (60201604)
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| Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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| Keywords | フランス文学 / 歴史叙述 / リアリズム |
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| Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度に予定していた写実主義小説作品の分析を行った。取り上げたのは1829年に歴史小説『フクロウ党』を発表したバルザックが、29-30年にかけて公にした三人称小説『ソーの舞踏会』、『栄光と不幸』（後の『鞠打つ猫の店』）、『ラ・ヴァンデッタ』、『財布』である。1830年という年は、バルザックが後に『人間喜劇』に納めることになる作品を新聞・雑誌に発表し始める年で、バルザックの写実主義三人称小説の基礎が形作られた時期といっても良い。
これらの作品は作者のほぼ同時代のパリを舞台としながら、『フクロウ党』の流れを受けたフランス革命期の記憶が色濃く反映している。『ソーの舞踏会』は王政復古期の貴族の娘と新興ブルジョワジーの青年の恋愛と挫折を軸に、新旧2つの勢力のせめぎ合いと、不可逆的に変化してゆくフランスの上流社会が活写されている。わがままで高慢な末娘のエミリーを嫁がせることにフォンテーヌ伯爵が腐心するという作品のメインプロットでは、直接話法による場面の演劇的再現とともに、現在形での一般論や読者との共通了解事項としての固有名詞の頻出、「我々」という形での読者への呼びかけなどから、物語時間と作者・読者の「現在」の同時性が前提とされていることが、分析の結果明らかとなった。同様の傾向は『ラ・ヴァンデッタ』『財布』『栄光と不幸』にも観察される。さらに、これら４作とも物語が登場人物の直接話法の台詞で結ばれている点は重要である。
以上の点から、この時期のバルザックの3人称小説は、歴史的状況を背景に、物語を演劇的に表象し、語り手と読者はその観客として位置づけられていることが確認された。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3人称写実主義小説への道を『人間喜劇』で開いたバルザックが、小説作品を書き始めた1830年に、フランス革命期の記憶を背景にした同時代の物語を演劇的に再現する、という方法を編み出していたことが明らかになったことは、19世紀フランスの三人称小説の語りが演劇的構造を前提としているという当初の仮説を裏付けるものであり、研究は順調に進展している。
ただ、当初検討する予定にしていた語り手の政治的立ち位置については十分な分析に至っていないので、この問題は来年度予定しているスタンダールの『パルムの僧院』におけるナポレオンの記憶を巡る歴史叙述の作中への編入の分析と併せて考察したいと考えている。
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| Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であり、これまで取り組めなかった歴史叙述と小説作品の語りの構造の偏差と、その原因について考察する。
具体的には、スタンダールの『パルムの僧院』（1839）における歴史表象について分析する。スタンダールは『パルムの僧院』と平行して『カストロの尼』を執筆しており、両者がイタリアの歴史古文書「ファルネーゼ家の起源と栄光」に着想を得ていることが知られている。同時に作品冒頭のワーテルローの戦いの場面は、作者のナポレオンについてのテクスト（『ナポレオンの生涯』1817-18、『ナポレオン覚書き』1836-37）との関連のなかで分析することが不可欠である。特に『ナポレオン覚書き』は作家が『パルムの僧院』の執筆に着手する直前に書いたものであり、作家はこの執筆を契機に、「ファルネーゼ家の起源と栄光」のプロットをナポレオン戦争期に移植することで、その作品化が可能となった。
双方におけるナポレオン戦争を巡る語りに、歴史叙述とフィクションとの偏差を検証し、併せてスタンダールの歴史観、政治思想との関連を分析することで、本研究を締めくくりたい。
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| Causes of Carryover |
年度末をはさんだ海外出張経費を次年度予算に振り当てたため、未使用額が生じた。清算後は大幅に解消する予定である。
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Research Products
(1 results)
