2015 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおけるブルターニュの再話文学の系譜-『バルザス=ブレイス』を中心として
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15K02383
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
大場 静枝 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (60547024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山内 淳 日本大学, 芸術学部, 教授 (20210320)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フランス文学 / ブルターニュ / バルザス=ブレイス / 再話文学 / ロマン主義 / 民間伝承 / ケルト |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、『バルザス=ブレイス―ブルターニュの民謡』(1839年)のテキスト分析とロマン主義時代におけるこの作品の受容の研究を行った。 テキスト分析においては魔術師マーリンにまつわる4編の歌を考察した。このブルターニュ地方の民謡集には88編の古謡が収録されているが、とりわけマーリンの物語に注目したのは、①マーリンが典型的なケルト系伝説であるアーサー王物語群に不可欠な登場人物であること、②著者のラ・ヴィルマルケが彼に強い関心を抱き、のちに『ミルディンあるいは魔術師マーリン:その歴史と作品と影響』という研究書を著しているという理由からである。分析は物語成立の歴史的背景の研究から着手し、『バルザス=ブレイス』におけるマーリンという人物の象徴的意味を考察した。なお本研究は、『日本大学芸術学部紀要』(2016年3月pp.29-36)において発表された。 ロマン主義時代における本作品の受容研究においては、まずフランスにおけるイギリスのマクファーソンの『オシアン』の影響とこの作品とほぼ同時期に著されたルソーの『新エロイーズ』の重層性に着目し、続いて19世紀前半の作家たちや学問として誕生したばかりの民俗学研究者たちの、民間伝承に対する認識の考察を行った。本研究の一部は、2016年9月刊行の『祈りと再生のコスモロジー:比較基層文化論序説』(仮題)で発表される予定である。また、『バルザス=ブレイス』の翻訳作業はすでに全体の50%程度を終了している。 研究会合については、平成27 年4月、5 月、7 月、10 月、平成28 年2 月に各1 回、計5回の会合を日本大学芸術学部江古田キャンパスにて開催し、研究内容の発表、翻訳上の問題点の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、『バルザス=ブレイス―ブルターニュの民謡』を中心に、フランスのブルターニュ地方の民話や民謡から生まれた文学作品を新たに「再話文学」として捉え直してフランス文学史の中に位置づけるとともに、その系譜を明らかにすることである。今年度はテキスト分析及び受容の研究を行い、その成果を論文として発表したことから、研究活動についてはほぼ順調に進展していると判断できる。 研究活動と並行して、『バルザス=ブレイス』のテキスト分析の過程で得られた知見に基づいて、同作品の全訳を行うことも本研究の目的であることから、研究代表者、分担者、協力者がそれぞれ翻訳を進めた。翻訳は現在のところ全体の約50%まで進んでいる。その具体的な進捗状況は「前書き」(終了)、「序章」(約30%終了)、第1章(約50%終了)、第2章(約30%終了)、第3章(約30%終了)である。翻訳作業に関してはやや遅れ気味であるが深刻な状況ではなく、平成28年度には十分に取り戻せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に得られた結果を基にして、研究代表者、研究分担者、研究協力者の各々は、その役割に従って研究を第2段階に進める。研究代表者及び研究分担者は、①「フランス・ロマン派における民間伝承とそれらの〈再話作品〉としての位置づけ」②「『バルザス=ブレイス』とフランス・ロマン主義との関係」③「『バルザス=ブレイス』のテキスト分析」に関する研究を行う。研究代表者、分担者、協力者が行う共同研究としては『バルザス=ブレイス』の翻訳をこれまで通り継続するが、平成28年度は出版社の選定を行い、出版の方針に従って作業のさらなる迅速化を図る予定である。 平成28年度の研究会合においては、従来の研究内容の発表、翻訳上の問題点の検討に加えて、「再話文学」の定義づけ、再話作品の「文学性」、19 世紀ロマン派の「再話文学」の位置づけ等をテーマに、発表形式で議論・検討を行う。研究会は、広く外部に門戸を開き、他の研究者たちとの議論の場にする。平成28 年5 月、7 月、9 月、10 月、平成29 年2 月に各1 回ずつ計5 回の研究会合を、日本大学芸術学部江古田キャンパスにて開催する。なお9月には、フランス国立図書館(パリ)とブルターニュ地方の市立図書館及び大学図書館(ブレスト、レンヌ)で、文献の閲覧や資料の収集を行う。 平成28年度の研究については、当研究会、日本ケルト学会研究大会、学会誌、紀要などへの発表によりその成果を問う。なお、平成27年度同様、Web 上で閲覧が可能な資料について、「研究資料としての使用」の立場を守り、かつ公開機関や関係者への使用の許諾を求め、出典を明示したうえで使用する。これまで築き上げた個人的な信頼関係により取得した資料や文書については、その好意的な協力に感謝し報いる意味でも、取り扱いには十分に留意する。
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Causes of Carryover |
研究代表者には2万円強程度の残額が生じた。これはパソコン及びプリンタを当初の予定より低価格で購入できからである。 また、研究分担者には13万円強の残額が生じた。これは以下の2点の理由による。①分担者が3月に予定していたフランス出張が中止になったことから、書籍や文献の複写・複製費等の費用が予定計上額を下回った。②フランスの国立や公立の図書館では独自の文献の複写・複製システムを導入し機器の持ち込み等を許可していないところが多く、当初予定していたハンディ・スキャナの購入が不要になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度には、研究代表者は次年度使用額を文献の複写・複製費用に充当する予定である。 また、研究分担者は昨年度の分担金の残額13万円強と今年度分担金20万円の合計30万円を、海外出張費と書籍購入費や文献の複写・複製費に充てる予定である。
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