2015 Fiscal Year Research-status Report
ベルナール・ハイツィックおよびフランス前衛詩における叙情性について
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15K02384
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
熊木 淳 尚美学園大学, 総合政策学部, その他 (90738618)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音声詩 / 前衛詩 / フランス現代詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は日本フランス語フランス文学会春季全国大会で口頭発表を行い、同学会の論集において査読論文を発表し、平凡社から刊行される論文集『声と文学(仮)』の掲載論文を執筆した。 『声と文学』掲載論文においては、本研究の対象となるベルナール・ハイツィックの詩論を、声の概念を中心に検討し、この概念が彼が影響を受けたとされるアントナン・アルトーの理論とどのように関わっているかを検討し、また彼の声を下の世代の詩人であるエマニュエル・オカールの声についての議論と結びつけて論じた。こうすることで本研究の2015年度の目的である音声詩を通時的な縦の関係において理解することができたと考えることができる。 また、日本フランス語フランス文学会の論集に掲載された論文では、ハイツィックと同世代で彼とともに音声詩の中心的な詩人であるアンリ・ショパンを取り上げ、一見ノイズのようであり、意味作用をもつ言語から完全に逸脱したような彼の音声詩がいかに彼の言語観を反映しているかを明らかにした。日本語で書かれた初めてのショパンについての論文であるこの研究では直接ハイツィックについて論じているわけではないが、フランスの音声詩という極めて特殊なジャンルを理解する上でショパンを理解することは欠かすことはできないものであり、次年度以降の本研究の足がかりとなるものである。 次年度以降の研究については、2016年5月30日に行われる日本フランス語フランス文学会春季全国大会においてワークショップ『20世紀フランス文学をめぐるアヴァンギャルド的思考』に参加し、そこで20世紀の前半と後半の前衛詩を分かつ大きなポイントとして叙情性の概念を指摘し、引き続き音声詩における叙情性と日常性というテーマで研究を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、本研究の対象であるベルナール・ハイツィックそのものの研究というよりは、むしろ彼の詩が通時的にどのように位置付けられるか、また彼が同時代の他の詩人とどのような関係にあるかという点に絞って研究を進めた。このような観点から「叙情に抗う声――オカール、アルトー、ハイツィックにおける音声的言表主体」(『声と文学(仮)』所収予定)、および「声、文字、アルファベット――アンリ・ショパンにおける詩的言語」(『フランス語フランス文学研究』第108号所収)の二つの研究論文は、本研究の一定の研究成果とみなすことができる。またこの二つの研究により、音声詩における日常性と叙情性というテーマを引き出すことができ、このことがこの後の研究課題となり、次年度以降の研究の重要な足がかりとなる。 具体的には、前者の「叙情に抗う声」において、ハイツィックの詩において叙情的主体と声とが通常考えられているのとは逆の関係(つまり叙情的主体があらかじめあってそれを声が表現するのではなく、声そのものが叙情的主体をでっち上げるという関係)を持っていることを明らかにしたが、2016年度はこの研究成果をもとにして、具体的に実際の作品においてどのようにそれが現れているかを明らかにしていく予定である。 また後者の「声、文字、アルファベット」においてアンリ・ショパンは言語の可能性を最大限に広げるために日常我々が使用している言語とは全く別の言語の有り様を模索したことを明らかにしたが、ハイツィックはむしろ逆にいかに詩的言語に日常性を忍び込ませるかに腐心した。このことをもとにして2016年度は日常性という概念をもとにショパンとハイツィックの音声詩を比較することになるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についてはベルナール・ハイツィックの詩における二つの側面を明らかにすることをその目的として進めていきたい。つまり日常性と叙情性である。 日常性の概念については2015年度に発表した「声、文字、アルファベット――アンリ・ショパンにおける詩的言語」での研究成果をもとにして、同じ音声詩の詩人であるショパンの詩論との比較においてハイツィックにおける日常性、およびこの概念の彼の詩的言語との関わりを明らかにしていくことになる。具体的には、日本フランス語フランス文学会の秋季全国大会においてこの研究についての一定の成果を発表することになるだろう。また、ハイツィックよりも後続の世代の詩人たちによる音声詩についてもこの日常性の観点から、ハイツィックの詩論と結びつけて分析をしたいと考えている。具体的にはトマ・ブレシェのいくつかの作品について日常性の観点から分析し、一定の研究成果を2016年度、あるいは2017年度に発表したい。 「叙情に抗う声――オカール、アルトー、ハイツィックにおける音声的言表主体」から引き出した叙情性のテーマについては、音声詩に代表される前衛詩とは全く別の文脈において研究の蓄積がある。本研究では当初の研究計画通り、それらの蓄積がどのように音声詩などのような前衛詩と結びつきうるかを検討し、音声詩における叙情性、より具体的にはハイツィックの音声詩における言語と主体との関係がどのようなものであるかを明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
研究そのものは概ね順調に進んでいる。だが研究資料に関して、入手困難なためいくつか入手できないものがあった。このことが次年度使用額が生じた大きな利用だと考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には東北大学で行われる日本フランス語フランス文学会にて研究発表を行う予定である。次年度使用額はそのための費用として使用されることになる。
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