2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02386
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
鈴木 雅生 学習院大学, 文学部, 教授 (30431878)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フランス文学 / ル・クレジオ / カミュ / デュラス / 植民地 / クレオール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまで共通の枠組みのなかで問題にされることの少なかった、語本来の意味での「クレオール」(=植民地生まれの白人)の作家に焦点を合わせる。具体的には、フランス系アルジェリア人の子として生まれたカミュ、植民地に派遣されたフランス人教師を両親として仏領インドシナに生まれたデュラス、そして18世紀末にモーリシャス島へ移住し20世紀初頭までそこに根を下ろしていた家族に生まれたル・クレジオである。これらの作家は、いずれも自らの生まれ育った土地においては余所者の白人でしかなく、かといってフランス本国に帰属意識を持つこともできず、二重の外在性のなかに生きることを余儀なくされ、「支配者」とも「被支配者」とも異なる視点から植民地を見ているだろう。彼らの文学における植民地の表象が、エグゾティスム文学に見られる「支配する側によって外側から描かれた植民地」や、フランス語圏文学に見られる「支配される側によって内側から描かれた植民地」とどのように異なり、どのように重なるのかを考察することによって、植民地帝国主義の膨張から脱植民地化にいたる18世紀から現代までのフランス文学に新たな視座を引き入れることが本研究の目的である。 二年目の研究においては、初年度に引きつづきカミュ、デュラス、ル・クレジオの作品分析を行いつつ、「支配者」とも「被支配者」とも異なるまなざしを体現した「移住者の子孫として植民地にルーツをもつフランス人作家による文学」の特徴を、「旅行者として植民地を訪れたフランス人作家による文学」と「植民地の表象」という観点から比較することで浮き彫りにすることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年7月および12月にフランス国立図書館や移民歴史館にて植民の歴史や入植者の状況に関する資料の調査・収集を行った。旅行者として植民地を訪れたフランス人作家がどのように植民地を表象しているかについて、中継基地の飛行場長としてサハラ砂漠のキャップ・ジュビーに赴いたサン=テグジュペリの作品を分析した。また、ル・クレジオに関して、フランス語フランス文学会関東支部大会のシンポジウムで「ル・クレジオと夢」という題で発表を行った。この発表については今秋発行の『関東支部論集』に掲載される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
引きつづきカミュ、デュラス、ル・クレジオの作品分析を行うとともに、それらの作家のルーツであるアルジェリア、ベトナム、モーリシャス島を訪れ、資料調査を行う。そのうえで、「支配者」とも「被支配者」とも異なるまなざしを体現した「移住者の子孫として植民地にルーツをもつフランス人作家による文学」の特徴を、「旅行者として植民地を訪れたフランス人作家による文学」(=エグゾティスム文学)や「旧植民地におけるかつての被支配民族出身の作家が宗主国の言語で自らの世界を表現する文学」(=フランス語圏文学)との比較を通して浮き彫りにしながら、三年間の研究の成果をまとめる。
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Causes of Carryover |
当初はアルバイトを使って資料の整理などを行うことを考えていたが、自分自身で行ったため人件費として想定していた額が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究に必要な資料を追加して購入するための費用にあてるつもりである。
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