2016 Fiscal Year Research-status Report
フランス飲食文化の受容を軸とした日本の飲食表象空間の編成とその社会的意味の研究
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15K02392
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福田 育弘 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70238476)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 飲食 / 食事様式 / ワイン / 日本酒 / フランス料理 / 表象 / 日本料理 / ドメスティケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
5月にソルボンヌ大学地理学科飲食研究マスターコースに正式招聘され、特別研究期間を利用して前後2か月弱おもにパリに滞在し、先方の要望に応える形で、日本の飲食文化についてフランス語で複数の講義を行った。講義直後の質疑応答のほか、講義の前後の打ち合わせや会合を通して、多様なフランス人の飲食を専門とする地理学者と交流し、研究課題の分析と考察を深めることができた。 さらに、この滞在中に、おもにパリにおける日本の飲食文化受容の進展に関して調査を行った。その後、同じく特別研究期間を利用して、8月後半から9月半ばまで3週間余にわたってブルゴーニュの2つのワイン村(ポマールとアルスネン)に滞在し、現地のワインの生産と受容の現状を詳しく調査するとともに、この地方における日本の飲食文化の受容(日本食の普及と日本人シェフのフランス料理店の展開)を確認し、何人かの関係者を取材した。とくに、日本酒の蔵元、名古屋の萬乗酒造がモレ・サン・ドニ村に2016年に立ち上げたワイン醸造所を訪問して長時間にわたって関係者に取材したことで、ワインが日本酒に影響を与え、さらにワインの影響を受けた日本酒の製造元がフランスでワイン作りに挑むという、日仏の飲食文化の相互作用を、ワイン生産のレベルで確認できたことは大きな成果だった。一方、日本では、ワイン用ぶどう栽培への新規参入者の多い北海道の岩見沢地区と余市地区を1週間かけて訪問し、新規参入した多くのワイン農家の取り組みの現状と考え方を知ることができた。 2月初旬には、ユネスコの後援でフランスのSUPAGROが他の政府機関とともに毎年開催する「世界の食」の第6回公開国際シンポジウムに招聘され、日本の飲食文化について講演を行った。このさい、地理学者以外の多様な飲食関連の研究者(社会学、経済学、医学等)と交流できたことは、自身の研究の幅を広げる大きな刺戟となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特別研究期間を活用してソルボンヌ大学地理学科飲食研究のマスターコースで行った日本の飲食文化を多面的に考察した一連の講義と2月にモンプリエの国際シンポジウムで行った講演は(すべてフランス語)、講義録として手許に残っており、いずれなんらかの形で刊行することを考えている。これ自体すでに今後につながる大きな成果である。 さらに、それらの論攷は、日本の飲食文化に関するフランス人研究者ニコラ・ボーメール氏(名古屋大学準教授)との共著(フランス語でPUFより2018年に刊行予定)にも大きく寄与するものである。一方、特別研究期間だったため、国内では、明治期の各種新聞に掲載されたぶどうやワインに関わる記事や広告を網羅的に閲覧し、さらに当時の医学書や養生論の著作に多数当たり、明治期のワインの受容と変容の複雑な過程を明らかにすることができた。 以上が、「おおむね順調に進展している」と判断する理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のフランスと日本での講義や調査の成果をふまえ、ニコラ・ボーメール氏との共著となる日本の飲食文化を考察した著作(フランス語)を完成させるとともに、研究休暇で深まった知見を論文や著作としてまとめていく予定である。 すでに、2017年1月から連載が始まった月刊誌『選択』の「美食文学逍遙」は、簡潔なエセー風の記述という形式をとってはいるものの(4段組見開き2頁約2800字)、毎回関連著作や研究書にあたって執筆しており、これまでの研究成果を反映した内容となっている。
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Causes of Carryover |
残額がわずかであり(129円)、研究に必要な経費とならなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分と合わせて、有効に活用する予定。
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Research Products
(8 results)