2018 Fiscal Year Research-status Report
フランス飲食文化の受容を軸とした日本の飲食表象空間の編成とその社会的意味の研究
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15K02392
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福田 育弘 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70238476)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 飲食 / 表象 / 美食 / 共食 / 自然 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本とフランスの飲食関連の文献や美食言説、文学作品の分析により、日本とフランスの飲食空間が、どのように編成されているかがかなりの程度明らかになってきた。もっとも重要な点は、日本人の飲食の感性が、季節感を軸とした自然志向にあるのに対して、フランス人の飲食の感性が、共食を軸に、共食を可能とするものとしての美食をとらえていることである。このような違いは、すでに2つの論文「ガストロノミーあるいは美食はどう語られ、どう実践されるか」「日本人の飲食の感性を考える」(ともに早稲田大学教育・総合科学学術院紀要『学術研究』)、およびいくつかの評論(とくに月刊『選択』連載「美食文学逍遙」)で詳しく考察した内容である。 こうした違いは、飲食に関わる人々への現場での取材を通しても確認できた。しかし、具体的な現場で見えてきたのは、日仏の飲食の感性と飲食空間の編成の違いだけではなく、日本的な飲食の感性のフランスへの影響と、フランス的な飲食の感性の日本への影響が強まりつつある事実である。前者は、2000年代以降、すしを中心に日本食のレストランが地方にまで展開し、日本料理が広くフランス人社会に浸透したこと、日本人シェフによるフランス料理のレストランが高い評価を受けていることに、後者は日本酒で地域性が重視され、日本酒のワイン化とでもいうべき事態が進行しつつあることによく現れている。 こうした相互影響と相互浸透は、2000年代以降、日本で新しい世代を中心にワイン生産がぶどう栽培から醸造まで一貫した形で行われるようになる一方、フランスでは、日本酒に魅せられた人々によって各地で日本酒生産が試みられているという事実に典型的に示されている。その一端は、「ジャポニズム2018」の一環としてソルボンヌ大学で2019年2月4日5日に行われ、わたしも司会者および発表者として参加した「食文化シンポジウム」でも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日仏の飲食空間の社会的編成について、飲食関連の文献(美食言説や美食をあつかった文学)の精読を通じて両者の美食観と飲食の感性の違いが明らかになってきた。 そうした違いと共通性は、日仏での飲食の現場(レストラン、ワイン生産者、食品店など)で確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
広い意味での飲食空間は、フランスではテロワールを軸に地域性という空間的概念で、日本では季節感を軸に旬という時間的概念でとらえられていている。これは飲食を通して自然に対してどういう関係をとるかの違いに起因するものと考えられる。換言すれば、飲食にける自然観ないし自然表象の相違である。しかし、すでに述べたように、この2つの傾向性は、現場での交流を中心に相互に影響し合っている。今後の課題はこうした飲食を通した自然の表象の編成と相互変容を歴史的社会的文脈のなかで分析し、その社会的意味を考察することにある。 とくにこうした考察で重視すべき点は、エコロジー問題が世界的規模で議論され、自然環境への配慮がクローズアップされつるある近年の世界的情勢である。このような環境問題に飲食物の生産と消費は直接関わっている。飲食空間で地域性や季節性といった問題があらためて意識されつつある背景には、飲食が根本的な生存のレベルで人間が自然と関わる行為であることが深く関わっている。こうした感性の変化を美食文学や現場の言説で確認し、その社会的意義を考えねばならないだろう。
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Research Products
(4 results)