2016 Fiscal Year Research-status Report
バイフの詩的実験と16世紀ギリシア古典学:lyrique概念の発生と展開
Project/Area Number |
15K02395
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
伊藤 玄吾 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (70467439)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フランス・ルネサンス詩 / 16世紀西洋古典文献学 / ジャン=アントワーヌ・ド・バイフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はフランス文学史、特に詩の研究において欠かせない”lyrique ”という概念がルネサンス期に導入された過程を精密にたどり、ギリシア古典文学の文献学的研究を行った学者たちと一部の博学な詩人たちが、いかにその語のギリシア的な意味での “lyrique”のありかたを理解し、または誤解し、その後自らがフランス語において目指すべき詩の方向性を定めて行ったのかを考察するものである。研究の第一段階は16世紀当時の主要な古典学の文献、つまり各種エディションや注解類、古典学研究に関する雑記類を丁寧に検証し、当時の古典学者における”lyrique”理解の歩みをできるだけ実証的に跡づけることである。特にロンサールやバイフなどプレイヤッド派詩人たちの世代に重要なギリシア語テクストを提供している古典学者アドリアン・テュルネーブが出版したいくつかのギリシア詩のエディションの検討を行い、またそうしたエディションや諸注解を通してギリシア詩を学び、それを踏まえて新しいタイプの詩作を始めた若き詩人たちにおける"lyrique"概念の発生と展開を探っている。またテュルネーブ以外の古典学者たち、ロディギヌスやスカリゲルの雑記類、それからバイフやロンサールのギリシア文学学習の師であったジャン・ドラの講義録やメモなども参照しつつ考察を深めている。これらの資料の中にはフランス各地図書館の貴重図書部での閲覧が必要になるものも少なくなく、限られた調査期間の中で隅々まで調べ尽くすことは困難だが、今回はプレイヤード派の詩人の中でも最もギリシア語との関わりが深いジャン=アントワーヌ・ド・バイフの作品との関連に的を絞ることで、より一貫性のある調査になっていると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.文献学的調査:平成27年度から継続でアドリアン・テュルネーブの重要な3つのギリシア語エディションの検討を進めるとともに、lyrique 関連の16世紀における古典学関係の書誌情報をより網羅的なものにするための文献学的調査を行った。この調査は比較的順調に進んできている。 2. 古典学者たちのlyrique 観の考察:古典学に関する雑見を集めたアドリアン・テュルネーブの浩瀚なAdversaliaや、ロディギヌス(ロドヴィコ・リッキエーリ)のLectiones antiquaeのような文献の中から16世紀当時の古典学者たちのlyrique観をできるだけ丁寧に抽出する作業。これは検討対象となるテクストの分量が膨大なため、当初の予定より時間がかかっている。 3.バイフやロンサールのたちの創作活動と直接的な関係のある資料、特に彼らのギリシア語学習の師であったジャン・ドラの講義を記録したノートやメモなどで、既に何らかの形で出版されているもの(P.Sharratの諸論文およびPh.FordのMythologicumなど)はもちろん、主にフランス国内の図書館において参照できるものはできるだけ参照し、それらの詩人たちのとくに創作活動初期のlyrique 観を明らかにしていく作業。これについては平成28年8月末から9月上旬の夏季休暇中に計画していたフランスでの研究調査の予定を都合により平成29年2月末に変更したため、十分進めることができなかった。その代わりに、平成29年度の作業として予定をしていた、詩人バイフおよび16世紀後半に活動した詩人たちに見られる、実作を通じてのlyrique 概念の発展を跡づける試みを一部先取りする形で始めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は以下の3つの作業を中心に研究を進める。 1.主にギリシアを専門とする16世紀古典学者たちのlyrique 観の考察:古典学に関する雑見を集めたアドリアン・テュルネーブや、ロディギヌスらの文献の中から16世紀当時の古典学者たちの”lyrique”観をできるだけ丁寧に抽出する作業(平成28年度からの継続)。それをさらにラテン語詩を中心に考察した理論家やネオ・ラテン詩人たちのlyrique 観とも比較する。Nathalie Duvoisの諸研究がその際の重要な手がかりである。 2.バイフやロンサールのギリシア語学習の師であったジャン・ドラの講義を記録したノートやメモなど、既に何らかの形で出版されているものはもちろん、主にフランス国内の図書館において参照できるものはできるだけ参照し、それらの詩人たちのとくに創作活動初期のlyrique 観およびそれがいかに彼らのフランス語詩作品において表れているかを考察すること。 3.詩人バイフおよび16世紀後半に活動した詩人たちに見られる、実作を通じてのlyrique 概念の発展を跡づける試み。叙情詩的な要素と叙事詩的な要素が融合した小ジャンル”epyllion”に分類されている諸作品、とりわけ『エウロペの略奪』(1552) 、『メダニス』(1577) 、『バイフ詩集9書』(1573) 収録の諸作品の分析を行っていく。これについてはすでに昨年度に先取りする形で始めており、その研究成果は8月上旬に開催されるロンサール学会大会にて発表し、その後学術雑誌『ロンサール研究』第31号に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年夏期(8下旬~9月上旬)に予定していた調査を都合により平成29年2月後半に変更したため、時期的に調査経費が予定額より抑えられたこと、またそれに伴う資料調査の一部の遅れにより、その整理作業は一人で可能な分量にとどまり、人件費がかからなかったこと、また複写申請を想定していた16世紀資料の一部が当該図書館で電子化され、PDFで無料入手が可能となったことなどもあり、全体として少額の余剰金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度中に実施できなかった分の資料収集および整理の経費として使用予定である。
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