2015 Fiscal Year Research-status Report
個別から普遍へ―異文化現象としての中世ドイツ英雄叙事詩―
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15K02399
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 英雄叙事詩 / 文学と歴史 / ディートリヒ叙事詩 / ニーベルンゲンの歌 / ディートリヒの敗走 / ハインリヒ・フォン・ミュンヘン / 世界年代記 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である平成27年度は、英雄叙事詩研究について論文3篇を発表し、口頭発表1件を行った。 1) 本年度の主たる研究対象である「ディートリヒの歴史叙事詩」には、先行する『ニーベルンゲンの歌』と使用語彙について同じ傾向が見られる。そこで作品としての『ニーベルンゲンの歌』を貫く性格を考察し、これを「ゲルマン的」思考の名残と見なすのではなく、他の諸作品と同じくあくまで中世の物語ととらえることを提言した。(論文1) 2) 文学と歴史の関係について考察を進めた。口承文芸の英雄ディートリヒ・フォン・ベルンは戦士貴族層での「人気」が高く、その祖先の系譜を文字で記すこと(『ディートリヒの敗走』)はむしろ歓迎されたと考えられる。そこでこの叙事詩からハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』に引用された部分を分析した。(両作品のテクストを比較対照し、共通性の高い部分を明示した。)『世界年代記』は厳密な意味では「史書」といえないが、当時の人々は歴史書と認識していた。そこで文芸作品が引用されたのは、たとえ虚構でも「書籍」になると一種の権威が与えられて内容への信頼度が高まること、そして聴衆や読者の関心を維持し退屈させないためであると提言した。(論文2および口頭発表) 3) 『ディートリヒの敗走』の最初の約2500行は、完本4写本のうち成立年代が早い写本RとWよりも、はるかに遅い写本PとAが古態を残すとされる。そのため従来は写本PとAの冒頭部分も原態ないしそれに近い形態を残すと認識されていた。この通説を部分的に批判し、作品の冒頭部分は改変される例が多いことから『ディートリヒの敗走』の残存写本でも変容を被ったことを前提とすべきであると論じた。(論文3)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、中世ドイツ語圏の英雄叙事詩という個別現象から出発して、日本の軍記物語などを視野に入れつつそれらを包括する普遍的なものは何かを明らかにすることを目的とする。 そのため平成27年度は目標として複数の課題を挙げたが、いずれにおいても本文分析とデータ収集、およびそれらの検討を行うことにより、論文3篇を発表することができた。 また海外研究協力者と国内研究助言者からは、これらの検討の過程で本研究に対する支援とともに建設的な批判と助言が得られた。前近代の史書の中に文芸作品の記述が取り入れられるのは、ヨーロッパだけでなく日本など他の文化圏でも広くみられる現象であることをあらためて認識できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は文献学研究であるため、全期間を通じて対象とする諸作品や記録文書の語彙や表現に密着した考察を進める。 平成28年度は、まず27年度に続けて作品解釈の重要な鍵となる語彙を抽出し、それらの持つ意味に関する考察を進める。さらに「文学と歴史」の関係についても諸資料の批判的検討を行い、その結果を公刊する予定である。 平成29・30年度は、27・28年度の研究および従来の助成研究の成果を基にして、英雄叙事詩を他の文化圏の作品と比較ないし対比して検討する。それらの共通点や類似点と相違点に着目して理論的な記述を目指す方針である。
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Causes of Carryover |
平成27年度に購入予定だった図書および雑誌資料のうち、出版の遅れたものがあったため、結果として28,512円の残額が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の雑誌及び資料はまもなく刊行される予定であり、残額はその購入に用いる。
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Research Products
(4 results)