2017 Fiscal Year Research-status Report
個別から普遍へ―異文化現象としての中世ドイツ英雄叙事詩―
Project/Area Number |
15K02399
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 英雄叙事詩 / ヴィルギナール / ニーベルンゲンの歌 / 世界年代記 / ハインリヒ・フォン・ミュンヘン |
Outline of Annual Research Achievements |
助成研究3年目の本年は論文3篇と書評1篇を公刊した他、海外での成果発表を1件行った。 1.従来から活発な研究交流を行っているブレーメン大の研究者が2017年5月に英雄叙事詩『ヴィルギナール』と『ゴルデマール』の新たな校訂版を刊行した。とくに『ヴィルギナール』にはいわゆる正本とみなすべき写本がなく、校訂自体が難しい問題を抱えている。この点は日本文学研究とも比較できると考え、研究の現状と課題を論文として執筆した。(なお上記の校訂版には過去の助成研究で執筆した拙論5篇が引用されている。) 2.ハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』のある写本は、英雄叙事詩『ディートリヒの敗走』の記述を引用している。歴史書と物語の関係性を明らかにするため、日本ではまったく知られていないこの『世界年代記』の構造と特性、および文学史における位置づけを記述した上で、英雄叙事詩の諸作品と同じく流動性の高い本文を示す年代記諸作品といかに取り組むべきかを論じた。この『世界年代記』の場合も、日本文学の研究成果を応用する可能性について論じた。 3.ブレーメン大で資料調査と意見交換を行った際口頭発表を行う機会を与えられたので、ドイツを代表する英雄叙事詩である『ニーベルンゲンの歌』が戦前の日本でどのように受容されたかを発表した(2017年6月21日)。初めての翻訳が1939年に刊行されたにもかかわらず、作品の名前自体ははるかに早く知られていたという特異な現象を指摘し、その背景事情(「脱亜入欧」に象徴されるナショナリズムの高まり)を分析した。なおこの講演の原稿を補足修正し、論文(ドイツ語)としても発表した。 4.2017年には岡﨑忠弘(訳)『ニーベルンゲンの歌』(鳥影社)が刊行された。その書評を書く機会を与えられたのでこれを発表し、訳業の意義などを論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は研究に大きな進捗を見た。海外研究協力者や国内研究助言者と密に連絡を取り合って活発な意見交換を行い、さらに数多くの示唆や建設的な批判も得られた。その結果、上記のように論文3篇と書評1篇を刊行し、海外でも口頭発表を1件を実施することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は文献学研究であるため、全期間を通じて対象とする諸作品や記録文書の語彙や表現に密着した考察を進める。 ジャンルとしての「英雄叙事詩」、とりわけ『ヴィルギナール』を含む「ディートリヒの冒険叙事詩」の各写本における本文の流動性の高さが、ハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』の各写本の流動性と比較しうるという指摘はすでにある(Gisela KornrumpfおよびJohannes Rettelbach)。しかしこの問題はいまだ十分に考究されているとはいえない。「流動する本文」という現象は軍記物語など世界の文学で広く見られるので、最終年度も引き続き比較の視点からこの問題に関する考察を進める。 そのため平成30年度は、これまでの研究成果を総括し、同時に今後の展望を開くため、海外研究協力者のうちの1名を招いてワークショップを開催する予定である。またドイツ語圏とは異なる文化を背景に持つ者として、日本文学研究の成果を援用しつつ、西欧を中心とする研究者にいくつかの視点と可能性を実証的に示す論文を執筆する。 なお平成29年度に論文の刊行を予定していた課題で発表に至らなかったものがあるので、それを30年度に公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
(理由) 予定していた2度のドイツ出張のうち1度が先方の都合で実施できなくなったため、その旅費が未使用分として残った。 (計画) 平成30年度に海外研究協力者のうち1名を招いてワークショップを開催するので、未使用分をその経費に充当する予定である。
|
Research Products
(5 results)