2016 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト文化における視聴覚メディアと文学テクスト
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15K02405
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大森 雅子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (90749152)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア文学 / ソ連文化 / メディア文化 / ヴィジュアル・カルチャー / ミハイル・ブルガーコフ / 日本表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、まず、1930年代から45年までのソ連のメディア文化における「日本」のイメージについて研究を行った。1938年の張鼓峰事件や39年のノモンハン事件等、日本とソ連の間で国境紛争が頻繁に起こっていたこの時期、ソ連の新聞や雑誌には、日本を風刺する風刺画がしばしば掲載された。本研究では、新聞『プラウダ』や『イズヴェスチヤ』のほか、風刺雑誌『鰐』等に掲載された風刺画と報道写真に注目し、1930年代から1945年までのソ連において、「日本」のイメージにどのような変化が見られるか考察した。その際、ソ連の中国に対するオリエンタリズムのまなざしや、アメリカの反日プロパガンダとの比較分析を通して、この時期のソ連における「日本」表象の特性についても論じた。また、ソ連における風刺画と報道写真の相互関係性を分析するにあたって、当時のメディアにおける写真と肖像画の美学を明らかにした。以上の研究を英語の論文にまとめ、東京外国語大学外国語学部の紀要『スラヴ文化研究』第14号に投稿した。 上記の研究のほか、今年度は、昨年度の研究をさらに発展させるべく、ミハイル・ブルガーコフの1920年代の世相戯評や小説『巨匠とマルガリータ』(1928-1940)を当時のメディア文化に照らし合わせて論じた。この研究では、1920年代に刊行された風刺雑誌を取り上げ、作家の風刺雑誌に対する批判的態度について解明した。以上の研究成果を、2016年12月8日にモスクワ大学文学部で開催された第5回国際学会においてロシア語で報告し、学会の論文集に投稿した。 平成29年2月に東洋書店新社より出版された『新装版ブルガーコフ戯曲集』(共訳)では、2作品の翻訳と解題を担当した。 また、平成29年3月10日から1週間モスクワに滞在し、ロシア国立図書館とロシア国立公共歴史図書館で、ソ連の聴覚文化に関する資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、平成28年度は、1941年から45年までの大祖国戦争(独ソ戦)期のヴィジュアル・カルチャーと文学テクストとの関係性について研究を進める予定だったが、その前段階の30年代後半のソ連におけるメディア文化を調査しているうちに、極東での日本との軍事衝突に関する記事と風刺画や報道写真の中の「日本」像の分析が、大祖国戦争期の新聞、ポスター、映画、アニメーションにおけるヒトラーやドイツ国防軍の描かれ方を論じる上で重要であることが判明したため、今年度は「日本」のイメージ分析を優先することとした。大祖国戦争期のメディア文化に関する資料収集は進めているが、まだ十分とはいえず、今年度中に成果を発表できなかったことが悔やまれる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成28年度の研究課題であった、大祖国戦争期のメディア文化と文学テクストの関係性について、これまで収集した資料を整理しつつ、さらに新たな資料も収集して、論文を執筆する予定である。文学テクストは当時の児童文学のテクストを扱い、挿絵の分析も行う。 また、当初の研究計画にあったソ連の聴覚文化に関しては、特にロシア革命以降に急速に普及したラジオに絞って現在調査中であるので、このテーマに関しても、今後論点を整理した上で、1920年代以降の文学テクストに描かれるラジオの受容の諸相について論文を執筆する。 さらに、当初の研究計画に従い、平成28年度に行った1930年代から45年までのソ連における「日本」のイメージ研究を冷戦期まで広げていく。当時のソ連の大衆意識の中に「日本」のイメージ形成を促したと考えられる風刺画や映画を取り上げ、日本文学の翻訳テクスト受容との関係性について分析していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、当初の研究計画にあった1941年から45年までの大祖国戦争期のメディア文化と文学テクストに関する研究を進展させることよりも、その前段階の1930年代ソ連のメディア研究に専念したため、大祖国戦争期に関する資料収集の時間が足りなかった。また、ロシア革命後のラジオ文化についての資料収集と分析にも十分に取り組むことができなかった。そのため、次年度使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、昨年度取り組めなかった上記のテーマの資料収集に次年度使用額を充てる。また、研究計画に従って、最終年度の研究課題である冷戦期のメディア文化についても資料を収集する。9月末には、アルメニアのエレヴァンで開催される国際ブルガーコフ学会で1920年代以降のソ連のラジオ文化と文学テクストに関する研究成果を報告し、そこで得られる助言をもとに論文を執筆する。ロシア語で論文を執筆するため、校閲料にも研究費を充てる。平成29年度の冬には、モスクワのロシア国立図書館とロシア国立公共歴史図書館で資料収集を行う。平成30年2月には、モスクワ大学で開催される国際学会で研究成果を報告し、学会誌にロシア語論文を投稿する予定である。
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Research Products
(5 results)