2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the hierarchy of language and style ----with a focus on the "Questione della lingua" in Italy
Project/Area Number |
15K02409
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
糟谷 啓介 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (10192535)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語問題 / イタリア語 / 俗語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、19世紀のイタリアの小説家マンゾーニによるダンテ『俗語論』解釈の特異性を明らかにすることを通じて、イタリアの「言語問題」における「言語」と「文体」の概念の位置づけを考察した。 本研究の第一の成果は、マンゾーニによる『俗語論』解釈の歴史的文脈を明らかにしたことにある。1868年にマンゾーニは当時の教育大臣ブロリオの依頼によって、統一国家イタリアが取るべき言語政策の方針を作成する委員会の委員長に任命された。そしてマンゾーニは、イタリアの言語統一はフィレンツェで話される口語慣用に基づくべきであると提案した。このマンゾーニの主張が画期的であったのは、実際の社会で話される慣用に標準語の基礎を置いたことにある。そのとき問題となったのは、ダンテが『俗語論』で示した「高貴な俗語」の概念をどのように捉えるかという点であった。ダンテの『俗語論』はイタリアの「言語問題」のなかで論者の立場を測るリトマス試験紙のような役割を担っていたのである。 本研究の第二の成果は、マンゾーニの『俗語論』解釈が当時の論争的文脈に根ざすだけではなく、マンゾーニ自身が長年にわたって展開してきた言語理論的考察に基づいていたことを明らかにした点にある。マンゾーニによれば、ダンテのいう「高貴な俗語」はひとつの言語の内部の「文体」の問題にすぎず、「言語」の次元の問題ではない。したがって、「高貴な俗語」を「国民語」のモデルとしてとらえるのは間違いだということになる。このマンゾーニの解釈は、マンゾーニ自身の独特な「言語(lingua)」概念にもとづいている。マンゾーニの「言語」概念とは、「一定の社会において恒常的なコミュニケーションに必要とされる記号の総体」を意味する。本研究の独自性は、マンゾーニの言語政策には、こうした抽象的な言語理論の背景があったことを指摘した点にある。
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