2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀後期の劇作品にみる市民家族像の政治性についての研究
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15K02412
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 准教授 (50534492)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | コスモポリタニズム / パトリオティズム / ヴィーラント / レッシング / 親密領域 / 家庭劇 / 啓蒙主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
18世紀における家族像の政治的機能について、本年度は以下の三点について研究を進めた。・親密領域をめぐる諸観念が、市民的公共圏において有した政治的機能について。・18世紀後期の家庭劇における親密領域の機能について。・ヴィーラントのコスモポリタニズムにおける親密領域の機能について。 一点目については、愛国の言説において家族道徳がどのように組み込まれていたかを、Hagemannなどのジェンダー史研究に依拠しながら、1800年前後に書かれた愛国的な詩などを手掛かりに確認した。これをふまえて、二点目として、イフラントを中心とする18世紀後期の家庭劇を分析した。フランス革命後に書かれた政治的色彩の強いいくつかの劇作品について、親密領域についての言葉や観念がその保守的な主張をどのように支えているのかを明らかにした。さらに、市民知識層の政治的な自意識形成の過程をより広い視点から明らかにするために、三点目として、ヴィーラントによるコスモポリタニズムの言説を検討した。ヴィーラント研究においては、まず「コスモポリタン教団の秘密」(1788)という論説を分析し、そこに「社会の中のコスモポリタン」としての生き方が提示されていることを示した。その上で、この生き方が彼の作品『アリスティッポス』(1801)においてさらなる発展を見せていることを示し、ヴィーラント的なコスモポリタニズムを実践するにあたって、家族を中心とした親密領域が決定的な意味を持たされていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは、啓蒙時代における家族像の政治的機能をもっぱら愛国主義との関わりから研究してきたが、今年度はヴィーラントを対象に、コスモポリタニズムにおける親密領域ということに研究を広げた。それによって、1800年前後における親密領域の政治的機能を当初よりも広い観点から論じることができた。コスモポリタニズムにおいて家族を中心とした親密領域がどのように位置付けられており、どのような機能を与えられているかということは、これまでの研究において見落とされてきた点であり、学術的な意義は大きいと考えられる。ただ、当初の計画では1800年前後における愛国主義をより詳しく検討し、そこに見る家族をめぐる言葉や表象の機能を精密に調べる予定であった。この部分の研究はまだ進行途上の段階であるが、すでに文献は集めてあり、最終年度で十分に取り戻すことが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては1800年前後における家族像の政治的機能をコスモポリタニズムとパトリオティズムの両面から改めて問いなおす。ヴィーラントにおけるコスモポリタニズムと親密領域についての研究成果を学会発表や論文にまとめる。イフラントをはじめとする保守的な家庭劇を中心に、1800年前後における愛国主義の言説を幅広く検討し、そこに見る家族をめぐる言葉や表象の機能を精密に調べる。コスモポリタニズムとパトリオティズムの双方において、家族を中心とする親密な領域をめぐる観念がどのような役割を与えられているのか、両者にどのような違いがあるのかを分析し、まとめる。最終的には本研究の成果を単著にまとめ上げる。
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Causes of Carryover |
文献収集のために2016年度3月末からドイツへ出張した。帰国が2017年度になったため、旅費が年度をまたいで折半される形になり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、2016年度3月末から行ったドイツ出張の旅費に充当する。残金が生じた場合は、文献購入費として本年度の予算に繰り込む。
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