2017 Fiscal Year Research-status Report
ハンス・ドリーシュ「新生気論」の研究―「エンテレヒー」の行方
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15K02416
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
福元 圭太 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (30218953)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エンテレヒー / 超心理学 / テレパシー / オカルティズム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は論文「ハンス・ドリーシュと超心理学 ―「エンテレヒー」の行方(2)―」を『言語文化論究』九州大学言語文化研究院 , 39, 1-19, 2017.09, に掲載し、ドリーシュの超心理学へのアプローチと、エンテレヒー概念との関係を分析した。これはしばしば「神秘主義的」で「非合理的」とされたドリーシュのエンテレヒー概念をドリーシュ自身が擁護するために、超心理学の科学性を検証しようとした著書を分析したものである。ドリーシュの『超心理学』は、現在ではドイツにおいてもほとんど誰も読まない本であるが、ミュンヘンにおける「降霊会」や、それを主催したシュレンク・ノッツィング男爵の事業に関する言及があり、1920年代ヴァイマル期のドイツの精神状況をうかがい知ることのできる貴重な文献である。またこの本が1933年に出ていること、のちにドリーシュがナチスによって講義ならびに執筆禁止になったことを考え合わせると、この本が一つのマイルストーンであることが分かる。やや複雑な論理であるが、オカルティズムを科学的なものであると擁護しようとしたドリーシュは、手品的で似非のオカルティズムを批判し、似非オカルトの隆盛を指弾しているのであるが、ナチズムがオカルト的な要素を多分に蔵していることから、ドリーシュは暗にナチス批判を行ったのではないかと考えられるのである。 なお研究計画に挙げたグスタフ・マイリンクのゴーレム表象とドリーシュのエンテレヒー概念との間には、密接な関連は見いだせないことが、研究の経過とともに判明したため、マイリンクについては、周縁的に言及するにとどめることになる。 さらにエルンスト・ユンガーについても、かつての学生であったという影響範囲を出るものではないようで、エンテレヒーと関連付けるのはやや牽強付会のきらいがあると思われるため、慎重な検討を要する状況にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者はドリーシュ研究を第3部として組み込んで、これまでに採択された2つの科学研究費補助金(①2008年度~2010年度, 基盤研究(C), モデルネにおける神秘主義のポテンツ ―グスターフ・テオドール・フェヒナーの系譜.②2005年度~2007年度, 基盤研究(C), 生物学的世界観とドイツ文芸クライス ヘッケル「一元論」の射程.)の成果とともに、ひとつの著書にまとめつつある。フェヒナー、ヘッケル、ドリーシュそれぞれについて原稿を整備しており、2005年度からの研究をまとめているため、ドリーシュ研究自体はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の計画中の著書原稿を平成30年度中に完成させ、平成30年10月の科研費(研究成果発表)に申請するつもりである。その際、本課題(ドリーシュ研究)は、著書原稿に有効に組み入れられることとなる。
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Causes of Carryover |
前年度の未使用残額が144733円、今年度のそれが156976円であるが、これは初年度の残金をそのまま持ち越した形となっている。初年度に少し余った理由は、ドイツにおける文献調査の際、いわゆるハードコピー代が大幅に減少したことによる。その理由はドイツ各図書館におけるスキャナの導入と、ミュンヘン大学図書館ではスキャナが無料であったことにある。平成30年度は最終年度なので、主として書籍の購入に、この額を有効に利用させていただく予定である。
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Research Products
(1 results)