2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀のドイツにおける女権運動と自然科学研究の発展,およびそれらの連関について
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15K02419
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
竹内 拓史 明治大学, 経営学部, 専任准教授 (00431479)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ゲオルク・ビューヒナー / エルンスト・ビューヒナー / ルイーゼ・ビューヒナー / 女権運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年6月17日開催の「2017年度明治大学ドイツ文学会・研究会」(於明治大学和泉キャンパス)で「父から子へ引き継がれたもの,引き継がれなかったもの―エルンスト・ビューヒナーとゲオルク・ビューヒナーの自然観」と題した発表を行ない,ビューヒナーの自然観とその父親の自然観を比較することで,ビューヒナーの自然観と革命観の特徴を明らかにした。この発表内容については,既に論攷としてまとめており,現在投稿先を検討中である。 また,ビューヒナーの父Ernstに言及したMarcel Beyer氏の2016年度ビューヒナー賞受賞記念講演を翻訳中であるが,これは現代におけるビューヒナー受容を父親との関連で考察する助けとなるだろう。 現在さらにビューヒナーの妹ルイーゼの女権運動と,ビューヒナーの自然観や革命観がどのように関連しているかを明らかにするため,ルイーゼの「Frauen und Beruf」を読み進めている。そこでルイーゼは男女平等の教育の必要性のみならず,自立した女性として手に職をつけることを勧めたり,結婚せず生きていく選択肢まで示している。一人の人間として自立した生き方を模索する内容は極めて現代的であり,兄ビューヒナーの革命思想と通底するものがある。 一方でルイーゼの思想はビューヒナーの革命思想と比較すると極めて現実的であり過激さもない。ビューヒナーは父エルンストから冷徹かつ客観的に自然を観察する態度と現実的で実際的な行動原理を学んだが,革命運動においては結果として現実を見誤ったとも言える。身近で兄を見ていたルイーゼが,女権運動において,思想の先進性にもかかわらず一方で極めて現実的なのは,その影響があると考えられる。今後両者の違いをさらに検討することで双方の思想の特徴をより明らかにしたい。 その他,ビューヒナー協会の事務局長として,研究発表会や総会の開催,準備等も行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ビューヒナーの自然観や革命観と,その父親エルンストの自然観の関連を検討することに予想外の時間をとられ,研究期間を一年延長しようやく本来の目的であるルイーゼの女権運動の中身を検討し始めることができた。その間,学部執行部として多忙を極めたり,大学を移ったりするなど研究に集中できない期間があったことも,本研究が遅れた理由である。 ただ,本年度中にルイーゼの女権運動と兄ビューヒナーの自然観との関連を論文として完成させることで本来の目的は達成できるので,十分な研究成果を出せるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに論攷としてまとめている,父エルンストのビューヒナーへの影響についての論文の投稿先を探しているところである。今年度中に発行されることを前提として決定するつもりである。 そのうえで,妹ルイーゼの「Frauen und Beruf」を詳細に検討し,彼女の思想に見られる兄ビューヒナーと父エルンストの影響と,ビューヒナーとルイーゼの権利運動に対する思想的違いを考察したい。ルイーゼの思想の先進性,現代性は明らかであるが,そこに兄ビューヒナーや父エルンストの自然科学的なものの見方が影響していると考えられ,その点を考察することで,当時のドイツの自然科学研究と女権運動のつながりの一端を明らかにできるだろう。 父エルンストのビューヒナーへの影響についての論文とともに,こちらも論攷としてまとめ今年度中に発表したい。
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Causes of Carryover |
ドイツに行き,資料収集などおこなう予定であったが,現在の大学に赴任1年目のため大学や学部の年間予定等をよく把握できず渡航時期を逃し,ドイツに行くことができなかったため,主にそのための費用として計上していた経費が残ってしまい,次年度使用額が生じた。次年度は,これまで様々な理由でできなかったドイツでの資料収集をする予定なので、そのための旅費や資料収集、学会発表などに残額を使用する予定である。
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