2015 Fiscal Year Research-status Report
移住および亡命におけるトランスカルチャー・テキスト -文化・文学研究的視点から-
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15K02420
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
Pekar Thomas 学習院大学, 文学部, 教授 (70337905)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 亡命 / 亡命文学 / 異文化研究 / トランスカルチュラルテクスト / 文化接触研究 / 移民 / 移民文学 / 超文化研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 1年目は、理論的な基準とテキストを具体的に照らし合わせ、移民文学のテキスト内に、どのようにドイツ語がテーマ化され、使用されているのか、文化人類学的観点から分析した。故郷の文化への固執、同化、ハイブリッド化の三点に着目し移民テキストの文献リストの作成、分類を行い、ドイツ語への向き合い方の類型を明らかにした。この作業を継続し、論文として発表する予定である。 2) 2015年7月、ベルリン自由大学でのシンポジウム「太平洋の詩学」で口頭発表を行った。本発表では、伝統的亡命研究を捉え直すため、1933年以降にアメリカ西岸に亡命したユダヤ系ドイツ人たちのテキストを扱い、この移民グループがどの程度、複数化したドイツ諸文化に独自の貢献をしたのか分析した。その成果はシンポジウム論集として発表される。 3) 2015年8月、ドルトムントのフリッツ・ヒューザー研究所にて、イタリア生まれの作家Franco Biondiのドイツ語テキスト分析を行った。彼のテキストは、ドイツ語移民文学の始まりについて重要な情報をもたらしている。作家と移民との組織やその共同作業が1981年、Biondiによる初めての移民文学の出版を導き出した。これについては、論文として発表予定である。 4) 2015年10月には、日本独文学会の秋季研究発表会でシンポジウム「東ドイツにおける文学的公共性」を開催し、ブレヒトが亡命中に執筆した "Kriegsfibel“について分析した。この事例は、トランスカルチャー性という観点から根本的な問題を提示している。本発表は日本独文学会の学会誌に掲載される。 5) これらの研究プロジェクトを遂行するため、2015年7月には、ベルリンにてIrmela von der Luehe教授と、2016年3月には、ドルトムントにてUte Gerhard教授と意見交換を行った。また、毎月定例である「文化接触」研究会を継続し、空間という概念を用いて移民テキストについて議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
外国人労働者のドイツ語など、少数派言語形式を意識的に使用することにより、故郷の文化への固執が文学的文体として見られるEmine Sevgi Oezdamarの作品、意識的に推敲された文体に表れる同化が特徴のRafik Schamiの作品、故郷の言語とドイツ語を包括する「新しい」言語の構築によるハイブリッド化が見られる、トルコ系ドイツ人作家Feridun Zaimogluの作品"Kanak Sprak“ (1995)に関する文化人類学的な分析モデルを試み、言語をめぐる問題の観点から類型を描き出すことができた。 移民文学に関する歴史的な解明については、文書館で調査を行い、関連の資料を収集した。その際、移民文学というジャンルの線引きが必ずしも明確ではないことが明らかになってきた。そのため、言語をめぐる問題を扱うテキストに焦点を絞り、移民文学を文献解題的に把握する必要が生じ、研究計画がやや遅れることとなった。 また、理論的には亡命文学と移民文学の関係性について、トランスカルチャーという観点から考察した。その際「文化接触」研究会において、移民文学とトランスカルチャー文学についての議論を進めたが、そこで、空間という概念を用いて分析する必要が認められるようになった。近年の文化研究ならびに文学研究において、spatial turn という概念のもと「境界」、「線引き」、「地図」、「地図学」などのテーマが議論されている。トランスカルチャーと空間という関係性を取り入れる作業が新たに生じたために研究がわずかに遅れた。この空間という概念のもと、移民文学およびトランスカルチャー文学を引き続き分析する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
a) 引き続き、言語をめぐる問題を扱った移民テキストのリストを作成し、類型を明らかにする。 b) 移民文学の歴史に関する資料収集を継続し、その成果を論文として発表する。 c) 上記の目的のため、移民のためのドキュメントセンター・博物館および移民オーディオ文書館(ケルン)、亡命・移住に関するペーター・キューネ文書館(フルダ)にて資料収集を行う。 d) 移民文学およびトランスカルチャー文学と空間の関連について、定期的に開催している研究会で引き続き議論と分析を進める。空間社会学の専門家Martina Loew教授(ベルリン工科大学)を招いてのワークショップも計画している。 e) 2016年は、ウェールズで開催される亡命研究学会や日本独文学会の研究発表会にて、本研究プロジェクトに関連するテーマでの口頭発表を予定している。
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Causes of Carryover |
1) 研究補助としてのアルバイトを見つけることができなかったため、その分の費用が発生しなかった。 2) 当初より計画していた2017年度のシンポジウム開催するにあたり、その前年度、すなわち2016年度においても相対的にわずかに規模の小さなシンポジウムを開催する。その為に、2015年度における旅費や消耗品の支出を制約した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1) 研究補助としてのアルバイトに対して20万円程度 2) 2016年度開催のシンポジウムに足して30万円程度
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