2016 Fiscal Year Research-status Report
移住および亡命におけるトランスカルチャー・テキスト -文化・文学研究的視点から-
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15K02420
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
Pekar Thomas 学習院大学, 文学部, 教授 (70337905)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 亡命文学 / 異文化研究 / トランスカルチャー文学 / 文化接触研究 / 移民 / 移民文学 / 超文化研究 / 空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 前年度に引き続き、初期ドイツ移民文学を行った。移民のためのドキュメントセンター・博物館および移民オーディオ文書館(ケルン)での調査により、移民自身による組織化とその確立が、a)移民から成る団体の設立、b)トルコ語とドイツ語など二言語で自費出版された文学・文化雑誌の刊行、c)すでに確立されていたドイツ作家による政治的、文化的組織との協力を通して進んだことが明らかになった。 2) 故郷の文化への固執、同化、ハイブリッド化という分析観点に関しては、先述の資料分析を通し、次の2点が明らかになった:①1970年代から1980年代終わりにかけての期間、労働者および移民による自立した文学の確立は成功していた。団体の創設や雑誌、書籍の刊行を通して、故郷の記憶を保ち、ホームシックや差別などの負の状況に注意を向けるような文化活動が広がっていった。②この活動は、移民がドイツ語を共通の言語として使用することで、言語の面でも組織の面でもドイツ文化に広まった。ドイツ語が母語ではないドイツ文学に与えられるシャミッソー賞の設立およびFranco BiondiやRafik Schamiの受賞がそれを示す。 3) 1990年代から今日までの動向を分析し、ドイツ語が母語の作家とドイツ語が母語ではない作家の境界が曖昧になる傾向が明らかになった。その結果、今日の超文化的状況を踏まえ、移民文学ではない今日の文学と、かつての移民文学を比較し、トランスカルチャー文学として定義できるか分析する必要が新たに生じた。 4) 毎月開催した「文化接触」研究会と10月に開催したワークショップでは、移民文学とトランスカルチャー文学の差異および共通点について分析を行った。ミシェル・ド・セルトーの定義に基づき、亡命と移住に見られる「空間」の移動という共通性、また空間の移動に伴う適応の試みとしての超文化やハイブリッド化について議論を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文書館にて資料収集と分析を行い、移民文学の構造について明らかにすることができた。また、移民文学に分類できるトーマス・マンとリオン・フォイヒトヴァンガーの作品を、異国という空間と結びついたアイデンティティという観点から分析し、論文を発表した。この結果、移民文学と後のトランスカルチャー文学との差異が明らかになったため、研究計画がやや遅れることとなった。 このため、トランスカルチャー性およびトランスカルチャー文学という概念について、さらに考察を深める必要が生じている。具体的には、本来、ドイツ語が母語ではない作家によるドイツ文学が対象であったシャミッソー賞が、文化の交換を描くような作品を受賞対象とするようになった変化の分析や、2014年に出版されたFeridun Zaimogluの小説Isabelなどの具体的な作品分析が求められる。 移民文学とトランスカルチャー文学との共通点については、これらのテキスト、またそこに記された人類学的経験と「空間」との関わりに着目し、8月にはソウルで開催されたアジア地区ゲルマニスト会議にて、10月には学習院大学で開催したワークショップにて口頭発表を行った。さらに同月、日本独文学会の秋季研究発表会にて、空間形成と権力に着目し、ナチズムにおける空間イメージとその具象化について口頭発表を行った。 引き続き、空間という観点に基づき、移民文学とトランスカルチャー文学の共通点の分析が進められる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
a) ケルンの文書館にて収集した初期移民文学の作家Franco Biondiの資料から移民テキストのリストを作成中であり、これを完成させ、初期移民文学および労働文学研究を補う。その成果については、論文で発表する。 b) トランスカルチャー性およびトランスカルチャー文学という概念について考察を深めるため、チュービンゲン大学のドロテー・キミッヒ教授など、ドイツにおけるこの分野の専門家と面会し、意見交換を行う。 c) 亡命文学、移民文学、トランスカルチャー文学という3つの文学のジャンルは、空間という観点で共通点を持ち、空間内で移動している状態と、そこに存在するという状態との間の緊張関係を有している。この点について、2017年10月に学習院大学にて研究会「西洋ならびに東洋における空間造形 (figuration of space) ── 定住と移住」を開催し、発表者および参加者と議論を行い、移動(移住)と定住(故郷)という二分法を超えた中間の形式について明らかにする。
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Causes of Carryover |
(1) 研究助手を雇う予定だったが助手が見つからなかったために人件費支出が予算よりも少なめであったから (2) 2017年度開催予定のシンポジウムの開催費用を確保するために、2015年度未消化分をそのまま2017年度に充てたから
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画は(1)5月のフランスにおける学会発表-35万円、(2)7月のドイツでの研究滞在-35万円、(3)10月日本開催の国際シンポジウム開催費用(招聘旅費等を含む)- 約50~60万円(4)物品費、人件費、その他-20万円を計画している。
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Research Products
(8 results)