2016 Fiscal Year Research-status Report
文学作品における固有名の機能とその受容についての研究―ドイツ語文学の場合
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15K02422
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
前田 佳一 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (70734911)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 潤 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (50613098)
江口 大輔 早稲田大学, 法学学術院, 専任講師 (90626285)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オーストリア文学史 / 固有名 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
10月に関西大学にて開催された日本独文学会秋季研究発表会の枠内でシンポジウム「人殺しと気狂いたちの饗宴あるいは戦後オーストリア文学の諸相」に司会者兼発表者として登壇した。シンポジウムの全体テーマは戦後オーストリア文学における保守性の残存とその新世代の作家たちとの関係というものであった。その際には何よりも「オーストリア」という,ハプスブルク帝国の終焉,第一共和国成立,ナチスとの合邦,連合国による占領,第二共和国成立という政治的な激変期を経てもなお当地の文化人・知識人にとって文化的アイデンティティのよすがであり続けた固有名が問題となった。シンポジウムでは前田がハイミート・フォン・ドーデラーの長編における「ウィーン」の虚構化について,研究分担者の山本(首都大学東京)がウィーン大学独文科における『ニーベルンゲンの歌』受容について,研究協力者の桂元嗣(武蔵大学)が「カカーニエン」をめぐるに言説について発表した他,日名淳裕(成城大学)がロホヴァンスキーによるオーストリア文学史再編の試みについて発表した。なおこのシンポジウムの準備のため複数回の研究会を開催したほか,9月に前田,山本がウィーン国立図書館,ウィーン文学資料館,ウィーン大学等にて予備調査をするための出張を行った。シンポジウム後はこの成果を元にした論集作成にあたった(2017年10月に日本独文学会研究叢書として出版予定)。 また,2017年5月と2018年2月に予定している二度のシンポジウムのための準備のため,研究分担者の江口大輔(早稲田大学),研究協力者の木戸繭子らと共に文学的固有名の機能についての理論的可能性を先行研究をふまえつつ検討した。その際には固有名によるIllusionierung(虚構化)の契機の有する文学作品における重要性が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は前田がお茶の水女子大学に移籍した初年度であったため研究環境整備のための関連文献の収集の必要があったが,それを順調に行うことができた。10月のシンポジウムならびにその後の論集化の準備も予定通り遂行できた。 なお,昨年度の報告書に記したように交付申請書の時点で2016年度予定としていた二度目のシンポジウムは2017年度に行うこととなっているが,その準備は2018年2月の三度目のシンポジウムと合わせ,順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年5月の日本大学における日本独文学会春季研究発表会の枠内にてシンポジウム「固有名と虚構性」を開催し,司会者兼発表者として登壇する。これには研究分担者の江口と研究協力者の木戸も発表者として参加する。前田はインゲボルク・バッハマンとハイミート・フォン・ドーデラーにおける「ウィーン」の虚構化について,江口はジャン・パウルの自伝における作者の固有名について,木戸はトーマス・マンの短編における固有名の作用について発表する。成果は日本独文学会研究叢書として出版する。 2018年2月には東京大学本郷キャンパスにて東京大学ドイツ語ドイツ文学研究室との共催でシンポジウム「名前の詩学(仮)」を開催する。 前田の個別研究テーマとしては,引き続き戦後オーストリア文学における「オーストリア」という固有名とそれが喚起する集合的記憶の有りようが問題となる。夏期にウィーン文学資料館,ウィーン国立図書館における10日前後の調査旅行を予定している。
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Causes of Carryover |
前田が110円,江口が3196円を次年度に繰り越した。少額を使い切るよりも繰り越した方が有効な使用ができると判断したためである。山本が45636円を繰り越した。次年度に出版される予定の関連の専門文献を購入するためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
専門文献の購入に充てる。
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Research Products
(11 results)