2015 Fiscal Year Research-status Report
イシス神を巡る表象についての理論的、図像学的、比較文化的研究
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15K02424
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
坂本 貴志 立教大学, 文学部, 教授 (10314783)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イシス / 地母神 / キルヒャー / 古代神学 / 世界の複数性 / 山片蟠桃 / 弁才天 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代エジプトを出自とする女神イシスを巡る思想と観念を、ヨーロッパ近代、とりわけドイツにおける継承と展開、その図像的表象の具体的様相、比較文化的な対象理解における応用、という三つの観点において明らかにする。女神イシスは、古典古代期における諸神混交の中であらゆる女神を統合するイメージとなり、ルネサンス以降のヨーロッパでヘルメス主義が新たに受容されるときの図像的モットーとなる。イシスを巡る想念の近代における理論的背景を、ドイツ近代の思想家達に焦点をあてて考察し、またイシスを巡る図像が人々の集合的な記憶の中で具体的に表現されるその図像的な特徴と実例を収集考察し、さらにイシスを巡る観念とイメージが、ヨーロッパから見て異なる東洋文化、とりわけ仏教の理解において応用される様を検討する。平成27年度において計画した主たる研究は、αスピノザの汎神論とライプニッツの超越神が対立的関係にあることを明瞭にする。βルネサンス期におけるイシス像の具体例を、新プラトン主義およびヘルメス主義に関心をもった思想家、芸術家の関わる図像の中に広く探求して、イシス像のサンプルをできる限り多く収集し研究する。γアタナシウス・キルヒャー『シナ図説China illustrata』(1667)の研究、であった。αに関しては、汎神論が、他の天体の住民の存在を想定したときに(「世界の複数性」)、神性を担保するための、ひとつの必然的な解であるとの認識に到達した。βに関しては、ヴァチカン図書館にて図像の調査収集を行った。イシスに並行してアルテミスの図像を検討し、地中海圏地母神の多様性の中にイシスを位置づけようとした。γに関しては、宇宙論の比較検討の必要から、山片蟠桃に着目し、これとキルヒャーの議論との比較を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論面では、「世界の複数性」がドイツ近代において汎神論、あるいは超越神の宇宙レベルでの発出という、カバラ的宇宙開闢譚のいずれかを必然的に要請するとの認識が形成されつつある。「ヘン・カイ・パン」(レッシング)のこうした一元論的世界認識が、キルヒャーに代表される「古代神学」、すなわち、啓示宗教の一回的出現とその影響として、地球上の宗教史を一元的に包括しようとする態度と連絡していることをさらに理論的に導出した。また、その具象的生成の歴史が、イシスおよびアルテミスないしはディアーナの図像表現によってなされると考察した。研究内容は、国際18世紀学会(2015年ロッテルダム大学)、国際独文学会(=IVG、2015年同済大学、上海)にて口頭発表した。また研究結果は、共著と岩波書店の『思想』を通して、幅広い知識層に紹介することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
女神たちの根源を古代の地中海圏に求めて、「母性原理」(バッハオーフェン)そのものを神的とみて、その回帰が「世界の複数性」と連絡する様を考究するのが鍵となる。アジア圏の文化との比較において、「古代神学」の影響圏外においては、「世界の複数性」が一方で無神論的とさえみえる汎神論のみを必然的に要請すると考えられる(山片蟠桃)。図像的には、イシスの比較対象として、観音と弁才天が位置づけられると認識され、この方面の更なる研究を必要と考えている。研究内容は、アジア・ゲルマニスト会議(2016年ソウル)にて引き続き国際的に発信するほか、日本シェリング協会にて発表し、学際的な立場からの点検を行う。
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Causes of Carryover |
ヴァチカン図書館にて研究を計画し、年度末に研究旅行を行ったが、急遽進んだ円高のため、予定していた額よりも、旅費が少なく済んだ。そのため、わずかであるが次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
改めて研究旅費に繰り込んで使用予定である。
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