2015 Fiscal Year Research-status Report
新約聖書のなかの差別と共生―ルカによる福音書の「罪人」テクストの社会科学的解釈
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15K02425
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
大宮 有博 名古屋学院大学, 商学部, 准教授 (20440654)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 初期ユダヤ教 / 旧約聖書 / 新約聖書 / ルカ文書 / 清め / 汚れ / 罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者はこの研究を遂行のための準備研究として行っていたレイシズム論に関する論文を27年7月に「コーネル・ウエストにおけるレイシズム論」として『名古屋学院大学論集 人文自然科学篇』52巻1号に掲載した。また、旧約聖書・初期ユダヤ教文献、新約聖書において清めと汚れについての研究史を、メアリー・ダグラスの『汚穢と禁忌』発刊までさかのぼってレビューを行った。この成果は「【研究ノート】初期ユダヤ研究における清めと汚れ」として『名古屋学院大学論集 言語・文化篇』27巻2号に掲載した。 この研究ノートでは初期ユダヤ教研究のJ. ニューズナーとJ. クラワンズに焦点をおいた。ニューズナーは汚れを罪のメタファーとする。それに対してクラワンズは祭儀的汚れと道徳的汚れを分けて扱う。しかしクラワンズも明らかにしていることであるが、クムランのセクトはこの両者を混合しており、またアレクサンドリアのフィロンは祭儀的汚れと道徳的汚れのアナロジカルでアレゴリカルな関係としている。このように祭儀的汚れと道徳的汚れの関係は、時代やセクトによって多様である。 今後本研究を遂行するにあたって、以下の2点が課題となることが明らかとなった。(1)新約聖書において祭儀的汚れと道徳的汚れがどのような関係にあるのか、そもそも両者は明確に分けて用いられているのか。(2)新約聖書(とりわけ福音書)において「罪人」について言及する時、それは道徳的汚れ(=罪)と何らかの関係があるか。「罪人」は、道徳的汚れとは何の関係もない、祭儀的汚れだけを負うものではないか。 本研究全体を遂行していくにあたって、「罪=道徳的汚れ」の研究が初期ユダヤ学および新約聖書学の分野でどこまで進んでいるかを確認した。また、初期ユダヤ教の分野での汚れ研究のレビューは、本研究ノートが日本語初のレビューとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
汚れに関する研究史のレビューに予想以上に時間がかかってしまった。とりわけダグラスの『汚穢と禁忌』に対する日本民俗学からの批判は十分検討する余地があったにも関わらず、これまでの初期ユダヤ教研究・新約聖書学の分野は、この分野の成果に傾聴してこなかった。報告者はこの分野の汚れ研究のレビューに時間をかけてしまったが、これは後になって新約聖書学の社会科学批評の方法論を深めていくにあたって重要なことである。 また、研究当初において想定できなかったこととして、報告者は所属研究機関を変更することになった。そのため(1)27年度に整備するはずであった一次文献の整備およびスキャナーなどの整備が遅れた。(2)当初予定していた27年度のイスラエルでの現地研究に行くことが非常に難しくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ルカによる福音書に登場する「罪人」と道徳的汚れ(=罪)と祭儀的汚れの関係について優先的に扱っていくこととする。そのために遅れている一次文献の収集を電子媒体で進める。また当初予定していたイスラエルでの現地調査を、安定して文献が収集できると同時に、共同研究も進めやすいアメリカ合衆国に切り替える。
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Causes of Carryover |
関西学院大学への割愛が決定したため、研究に必要な備品の使用を抑え、調査のための旅行のみを当該年度行ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度において関西学院大学において電子書籍による一次資料の整備、それに必要なパソコンの購入、およびスキャナの整備を行う。また国内の調査旅行を控え、海外での調査旅行を計画している。
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Research Products
(2 results)