2016 Fiscal Year Research-status Report
新約聖書のなかの差別と共生―ルカによる福音書の「罪人」テクストの社会科学的解釈
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15K02425
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
大宮 有博 関西学院大学, 法学部, 教授 (20440654)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 歓待 / 罪人 / 新約聖書 / ルカ文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は本研究遂行第1段階として論文「歓待の物語としてイエスの降誕場面を読む―ルカによる福音書2章1節~20節の社会科学的聖書解釈」を『外国語外国文化研究』17号(2016)に掲載した。また本論公開に先行して、「社会科学的聖書解釈の手法」を聖書学に関心のある一般読者に対して解説する目的で「すべての人が招かれる教会の予告篇」を『福音と世界』2016年12月号に掲載した。 論文「歓待の物語として…」では、まず「罪人」「貶業」と分類されることの多い「羊飼い」に対する群集の見方を、初期ユダヤ文献・ヨセフス・ラビ文献を用いて明らかにした。次に1世紀パレスチナの人々の目を通して、ルカ2:1-20に登場する「羊飼い」の文学的役割を明らかにした。このように「羊飼い」に対する差別を明らかにした上で本論は、このような被差別者との「共生」が当時の習慣である「歓待」によって示されていることを明らかにした。 本研究全体における本論の位置は次の通り。第一に、本研究は準備段階においてすでに、1世紀パレスチナ社会における差別を明らかにしてきたが、差別を乗り越えた「共生」の試みを明らかにすることが出来なかった。しかし、本論によって「歓待」の習慣が現代社会で言う「共生」の試みに通底していることを明らかにできた。第二に、これまで報告者は主に社会人類学者メアリー・ダグラスの「清め・汚れ」のコンセプトを用いて罪人研究を行ってきたが、本研究ではヴィクター・ターナーのリミナリティ・コムニタス論を用いた。 29年度はルカによる福音書における「罪人」「賤業」の代表格である「徴税人」について考察する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において必要な一次文献およびStrauck-Billerbeckの註解書はほぼすべて入手できた。またLOGOS社の電子媒体による文献ソフトを購入することができた。また28年度は初期ユダヤ教文献の中から特に第一エノク書、神殿の巻物などの分析に十分に時間をもちいることができた。さらに淺野淳博氏(関西学院大学神学部)およびJoel B. Green氏(Fuller Theological Seminary)の協力を得て、社会人類学の手法を聖書解釈に援用する方法について整理した。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度はルカによる福音書の「徴税人」について研究を進める。まず帝政初期のローマの徴税の制度について調査するために、ローマの文献を収集・分析する。この研究を論文として2018年に行われるアジア聖書学会で公表する予定である。この研究が完成すると、これまで1世紀パレスチナ社会の被差別者に関する研究(重い皮膚病・サマリア人・外国人・羊飼い)をあわせて、モノグラフ(単著による研究書)を刊行する。
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Causes of Carryover |
発注していた一次文献の到着が遅れている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度までに購入しなかった文献・電子媒体による資料を購入する。
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Research Products
(2 results)