2015 Fiscal Year Research-status Report
明治大正期の古鈔本の”発見”影印と羅振玉の古鈔本“発見”についての基礎的研究
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15K02435
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
道坂 昭廣 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20209795)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 古写本 / 羅振玉 / 景印 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は大連市図書館において、線装本古籍・集部の調査を行った。大連市図書館は羅振玉旧蔵書と他の古籍とを区分していないため、羅振玉旧蔵の可能性のある本を閲覧した。その調査のなかで同図書館蔵蒋清翊『王子安集注』は、羅振玉が正倉院藏王勃詩序との校勘に用いたテキストであることを発見した。写真撮影の許可を得られなかったが、平成28年度引き続き交渉を続ける。また同図書館蔵『大雲精舎蔵書目録』について調査し、京都大学附属図書館藏『羅氏蔵書目録』との異同について検討を加えた。ただ、遼寧省図書館については、図書館の移転後、ウェブ上での検索システムが変更され古籍の検索が行えなくなり、調査ができなかった。 日本国内においては、古鈔本の影印について調査を行ったが、その中で同志社大学に羅振玉より徳富蘇峰宛て書簡が保存されていることを知った。『大唐三蔵取経詩話』の影印交渉にはじまり、足利文庫の古鈔本・古版本影印について紹介を依頼する内容で、本科研の重要な資料であった。本年度は翻字をおこない、現在、その内容について確認を行っている。この成果については、28年度中に公表の予定である。またこのことにより、当初本科研で予定していた、博物局・印刷局といった公的機関の古鈔本影印の調査だけでなく、民間の蔵書家が古鈔本の所有やその影印活動について調査を開始した。このような民間に所蔵されていた古鈔本については、当時のオークションの目録が重要な資料となると考え、これらの所藏を調べるとともに、それら目録から古鈔本の情報を整理しつつある。 羅振玉は日本伝存の古鈔本・古版本を多数影印しているが、どのような経緯で影印したかついては、あまりはっきりしない。現在彼の『扶桑游記』などの記録や題跋等から日本人との交流、及び彼が古鈔本古版本の情報をどのようにして集めたかについて調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の反省は、予定していた調査のうち、中国、特に遼寧省図書館の調査ができなかったことである。大連市図書館の調査も不十分であった。国内の調査は比較的順調であったが、それらの調査をまとめるに至らなかった。 平成27年度、大連市図書館において行った蔵書調査で、羅振玉の校勘の跡がある『王勃集注』を發見した。これは羅振玉の『王子安集佚文』の底本となったものと考えられる。国内においては京都大学附属図書館に所藏されていた『羅氏蔵書目録』と大連市図書館所藏の『大雲精舎蔵書目録』の関係を解明し、京都大学所蔵本を中国・北京大学出版社より影印出版することができた。羅振玉の徳富蘇峰宛て書簡の翻字し、その内容について調査した。このことにより羅振玉が日本において、どのようにして古鈔本や古版本の情報を得、影印出版していったかについて、その経緯の知ることができた。あわせて内藤湖南をはじめとする当時の京都帝国大学の教員と羅振玉の交流ばかりでなく、広く当時の知識人蔵書家との交流についても調査を糸口を得た。楊守敬『日本訪書志』にように羅振玉には日本古写本古版本についてのまとまった著述はないが、彼の游記などの記録はそれに代わるものであるとの観点を得、本科研に関係する記録の調査を開始できた。 博物局「壬申検査」と印刷局局長得能良介の巡回調査、またそれぞれの関係資料に基づいて古鈔本関係について資料を拾い出した。しかし大正から昭和初期の民間の蔵書家の古鈔本所藏状況については、古典保存会の一連の影印資料を收集整理できた程度で、調査が遅れている。本年度を本科研の基礎調査の年と考えた場合、中国での調査が充分でなかったことを除き、資料収集についてはその方向を修正しつつ一定の成果を得たと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研の主要な調査対象であった遼寧省図書館の移転が完了し、調査が可能となったとの連絡を受けた。ただウェブ上での古典籍検索が現時点では出来なくなっているたため、27年度末、紙媒体の目録資料を購入した。これを用いて28年度以降、羅振玉旧蔵と思われる古籍を拾い出し調査に赴く。また大連市図書館についても、羅振玉の旧蔵本より、彼の跋文識語などの発見を目的として調査を行う。 『羅氏蔵書目録』や彼の古書刊行目録を手がかりに、日本伝存古鈔本の所藏実態、影印の経緯について調査を行う。本年度は、大正から昭和初期の民間の蔵書家について調査対象を広げ、その所蔵の経緯、更に影印されている場合には、どのような目的で影印されたのかについて明らかにしてゆく。羅振玉と日本知識人の交流としては、内藤湖南がまず挙げられる。しかし27年度調査によって、当時の京都帝国大学文学部の教員との交際ばかりでなく、民間蔵書家との交流も明らかになってきた。それらの交流について、実証的に調べてゆく必要がある。特にそのなかでも日本人との交流を通して、羅振玉がどのようにして日本における古鈔本古版本の所藏情報を入手し、更にはそれらを影印したのかについて、従来あまり明らかになっていない彼の活動について解明してゆく。そのため先人の書誌学研究を整理したうえで、美術史、茶道・書道などの各文化界の状況についても調査し、羅振玉等の情報収集の手法や影印の学的影響を明らかにする。羅振玉「等」とするのは、彼個人の活動はもちろんであるが、彼の日本の古鈔本古版本に対する調査と影印は、同時期の日中の書誌学・學術界の動きを象徴していると考えるからである。そのため湖南を始めとする日本の学術界の古鈔本古版本の発見影印にについても整理してゆく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた中国瀋陽にある遼寧省図書館に調査に赴くことができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、遼寧書図書館、大連市図書館などへの調査の他、資料整理などの為の人件費を予定している。
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Research Products
(5 results)