2016 Fiscal Year Research-status Report
トランスナショナルな視座からの済州(チェジュ)四・三文学の解明
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15K02454
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
姜 信和 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 研究員 (50725083)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玄 善允 大阪経済法科大学, アジア研究所, 客員教授 (80388636)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 済州島四・三事件 / 四・三文学 / 在日文学 / 比較文学 / トランスナショナル人文学 / 日本・韓国・朝鮮民主主義人民共和国 / 民族主義 / トラウマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、実質的に朝鮮戦争の前哨戦となった済州島四・三事件(1948)にまつわる四・三文学を、トランスナショナルな視座から再検討するものである。東西冷戦時代はもとより今日にいたるまで、日本・韓国・朝鮮民主主義人民共和国は、相互補完的に民族主義を翼賛する構造下にある。そのため、この大量虐殺事件をめぐる記憶と表象の問題を東アジアにおける諸言説との関連のなかで相対化する必要がある。すなわち本研究の目的は、左右イデオロギー闘争の影響とトラウマ、それらの苦悩からの脱出を希求する文学的表象の実態を解明するところにある。今年度の主な活動は以下の通りである。 今年度は姜信和(代表者)、玄善允(分担者)とも、各自がテクスト分析に注力し、年度末に第3回済州四・三文学研究会として「済州島四・三事件の記憶をめぐる紛争と四・三文学」(立命館大学、2017年3月)と題しシンポジウムを開催した。殊に今回は、四・三研究の第一人者である文京洙教授(立命館大学)を招聘し、学術交流を深めることができた。 海外出張については玄善允が分担し、引き続き済州でのインタビューも含めた資料収集を行った(2017年2月)。姜信和は四・三文学に関する口頭発表(名古屋大学、2016年12月)、(立命館大学、2017年3月)に加えて、本研究の発想の根幹となる尹東柱研究に関しても発表(日本大学、2016年10月)し、関連大学の研究者らとも親交を深め意見交換した(同志社大学および立教大学、ともに2017年2月)。また同時に、講読会も主催し運営を試みており(名古屋大学、2016年8月、10月、12月)、その成果は紙面にて発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度初めの予定通り、済州四・三文学研究会を開催し人的ネットワークをさらに拡げることはできた。しかし、今後はより開かれた形式で議論の場を持つことも検討しなければならない。また、事件後の影響や記憶をめぐる紛争などのアクチュアルな問題に応えるため、領域横断的な分析の可能性を模索しようと、精神医学分野の専門家の招聘も考えていたが断念した。まずはテクスト分析を急ぎ、研究の基礎を固めなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きテクスト分析を続行し、比較考察の精緻化に努める。また、続行中の四・三文学の翻訳作業を進める。一方で、口頭発表した尹東柱研究に関連しても、本研究の構想にいたる前段で核心であるため、これまでの成果を整理してまとめる。これらの未発表の論稿の延長線上に本研究があり、諸国間における相互補完的な民族主義翼賛構造の分析のための基礎となるため、修正を急ぎ加筆して投稿する。
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Causes of Carryover |
シンポジウム開催時に招聘予定であった専門家の参加人数に変動があったためと、研究代表者が国内出張による発表に注力し、計画を見直して資料収集のための海外出張を見送ったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の研究期間を見直し、制度に則り延長申請する予定であり、差額の研究費を次年度以降の予算に充当し、全体の予算構成を慎重に再検討した上で、有用に使用する計画である。
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