2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02456
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北村 卓 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70161495)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ボードレール / ボードレール受容 / 比較文学 / フランス文学 / フランス文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、これまでの成果をもとにしつつ、諸外国におけるボードレール受容がどのような展開を見せているのかを中心に考察を試みた。そこから、日本におけるボードレール受容の特性を明らかにする予定であったが、フランス国内の治安状態の悪化により、予定していた現地での調査ができず、主として文献により研究を進めることになった。また、ボードレール受容の背景となるフランス文化一般の受容についても、文学だけにとどまらず、芸術や演劇・映画といった関連領域を視野に入れながら、同時に研究を進めた。 まず、平成30年5月、『表象と文化』第15号に「谷崎潤一郎のボードレール受容に関する一考察―谷崎訳 'Le Fou et la Venus'をめぐって」と題する論文を発表した。次に同年10月、「文化外交としての宝塚歌劇―海外公演をめぐって」という論考が、『越境する文化・コンテンツ・想像力』に収録された。また平成31年2月、大阪文学学校からの依頼で、機関誌『樹林』に書評論文「翻訳と研究の融合―シャルル・ボードレール著、山田兼士訳・解説『小散文詩 パリの憂愁』(思潮社、2018年)」を寄稿した。 フランスでの調査は断念せざるを得なかったが、平成30年12月8日には、フランス文化振興の北海道における拠点であるアリアンス・フランセーズ札幌に招待され、‘Takarazuka et la France’と題して講演を行った。翌日の12月9日には、北海道大学において開催された札幌日仏協会創立30周年記念シンポジウム「フランス、日本、そして北海道―日仏修好160周年にあたって」に招かれ、基調講演を行った。 さらに平成31年3月2日には、大阪大学フランス語フランス文学会主催の研究会において、「ボードレール研究の可能性―テクストから世界へ」のタイトルのもとに講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年5月に掲載された論文「谷崎潤一郎のボードレール受容に関する一考察―谷崎訳' Le Fou et la Venus'をめぐって」では、谷崎がボードレールの散文詩を英語訳からではなく、フランス語原文から訳出している場合があることをテクストの詳細な分析から証明し、大正期の谷崎におけるボードレールの重要性を改めて明らかにした。 同年10月には、『越境する文化・コンテンツ・想像力』(高馬京子・松本健太郎編, ナカニシヤ出版)に収めた「文化外交としての宝塚歌劇―海外公演をめぐって」において、国内で独自のフランスイメージを生成する宝塚歌劇が海外ではどのようなイメージを発信しているのかについて論じた。 同年12月8日にアリアンス・フランセーズ札幌にて行った講演 ‘Takarazuka et la France’では、日本におけるボードレール受容とも密接に関係するフランス文化の受容と変容の特徴について論じた。また12月9日に開催された札幌日仏協会創立30周年記念シンポジウムでは、これまでの研究成果をもとに、日仏の文化交流の歴史と現状について、北海道とフランスの関係に焦点を当てながら基調講演を行った。 平成31年3月2日に大阪大学フランス語フランス文学会研究会において行った講演「ボードレール研究の可能性―テクストから世界へ」では、ボードレール研究の歴史と現状を概観した上で、現代のボードレール研究が、テクストを中心とした作品分析と同時に、世界におけるボードレールの受容研究を重要視しつつあることを示した。 先にも述べた通り、当初予定していたフランスでの調査を行うことはできなかったが、以上より、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に関するこれまでの調査の過程で看過されてきた文献や資料がないかどうか、また分析のプロセスにおいて不備等がないかを再度確認した上で、得られた成果をまとめ、本研究の主題である日本におけるボードレール受容の総括を行い、国内や海外の学会での発表、論文、あるいは著書などを通して広く公表する。その際、日本以外の国や地域におけるボードレール受容についてもさらに考察を深めることにより、日本と日本以外の文化圏における受容の類似性、あるいは日本におけるボードレール受容の独自性を検討し、本研究の主題を立体的に補強するものとする。 また、日本におけるフランス文化(ひいては外来文化)一般の受容の問題は、本研究の主題であるボードレールの受容と深く密接に関係している。したがってこれについても、これまでと同様に並行して研究を進めていく。そして、その成果を本研究に取り込むことによって、本研究の主題が単に文学上の受容にとどまらず、広く文化一般における受容の問題と一つとしても捉え得ること、すなわち現代的な意義を有する開かれた主題であることをあわせて提示する。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成30年秋に予定していたフランス、パリでの調査を、現地の治安上の問題から断念したため、当初予定していた予算を消化することができなかった。 (使用計画)研究課題の完成に向けて必要な文献や資料の収集にかかる費用及び旅費、調査費に充てる。
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Research Products
(6 results)