2019 Fiscal Year Annual Research Report
A Postcolonial Study of Comparative Culture on the Humans and Environments in the Pacific World
Project/Area Number |
15K02461
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
須藤 直人 立命館大学, 文学部, 教授 (60411138)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 先住民 / ポストコロニアル / ポストヒューマン / 孤島 / 海民 / キリスト教 / 太平洋世界 / 南洋諸島 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本とその周辺世界(太平洋世界)の人と環境に関するポストコロニアル文化研究である。オセアニアから日本に連なる群島世界の「先住民」表象の問題を扱った。まず国際連盟委任統治委員として南洋諸島ミクロネシアと関わった民俗学者・柳田国男に注目した。柳田は、稲作技術を携えた人々の日本列島への移住、大和政権・仏教の勢力伸長の影響下に山奥に逃亡した先住民(山人)が存在し、彼らが残存していることを主張した。南洋諸島も日本列島も大陸(文明)から離れた「孤島」からなり、山人は「孤島」ゆえに生じた。海が容易な移動を許さぬ群島世界は、逃げ場のない先住民の「孤島苦」の世界である。孤島苦を慰めるのは先祖の霊、万物に宿る精霊である。柳田の言う「山人」は現実には見つからなかったが、近現代の日本文学・文化の中に生き続けている。山人のイメージ、山人の残影・遺産が神・妖怪・霊・動物・植物等、人間以外の存在と結びつき、あるいは山・川・森林・島・海との関わりの中で描かれてきた。
このように本研究は、柳田国男が言う「山人」「先住民の孤島苦」の、近現代文化テクストにおける表象に焦点を当てた。柳田の議論に接続可能な網野善彦等の「海民」論や、ポストコロニアル文化論が説く異種混淆理論・環境論、さらに近代の人間観・人間中心の世界観に反論を試みるポストヒューマン文化論を参照した。
分析したテクストは小説(森鴎外、芥川竜之介、宮沢賢治、坂口安吾、中島敦、新美南吉、遠藤周作)、マンガ(水木しげる、手塚治虫)、アニメーション(政岡憲三、宮崎駿)であり、それぞれのテクストを「先住民の孤島苦」という視座から捉え直すことを試みた。本年度は、日本でのキリスト教の問題を扱った芥川・坂口・遠藤の諸テクストを、従来の殉教・棄教の問題系から、「先住民の孤島苦」「海民」の問題系に置き直す解釈を試みた。
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