2016 Fiscal Year Research-status Report
韓国の小説と映像文学に現れている東アジア市民意識研究
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15K02464
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
申 明直 熊本学園大学, 外国語学部, 教授 (50389524)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東アジア市民 / 中間市民 / 類似市民 / ネットワーク市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、韓国の小説・映像文学、特に韓国における華僑華人と日本における韓国と東アジアからの移住民について調査研究を行った。そのため、韓国と日本における実態調査等を行い、以下のようなことが明らかになった。 (1)植民地期における華僑華人は「中間市民」の地位を持つ、動員された「東アジア市民」であった。特に東南アジアの華僑華人の場合、西欧植民地期には西欧と原住民の間の「中間市民」と言える。しかし戦前の日本の統治期にはその「中間市民」としての地位を原住民に奪われた。日本植民地期の満州における朝鮮人は、日本人と中国人の間の「中間市民」としての地位を持っており、それゆえ同時期の朝鮮の華僑華人は厳しい局面に立たされることも多かった。 (2)韓国と東南アジアの開発独裁時期における華僑華人は、該当国家より同化を強要され、市民であるが市民としての権利を持っていない「類似市民」の地位に留まっていた。階級独裁時期におけるインドチャイナ半島の華僑華人も、開発独裁時期の華僑華人と同じく、市民としての権利を持っていない「類似市民」と言える。 (3)中国の改革開放以来、旧華僑華人資本の中国への帰郷と同時に、新華僑華人の脱中国ラッシュが始まったが、その過程で新・旧華僑華人の疎通による中華型「ネットワーク市民」が誕生した。特に、旧華僑華人の資本の帰郷は「東アジア華商ネットワーク」を、新華僑華人の脱中国ラッシュは韓国と東南アジアに「中華型東アジア移住民ネットワーク」をそれぞれ作り出した。「中華型東アジア移住民ネットワーク」の場合、初期には「短期居住型」・「留学永住型」ネットワークが中心であったが、「資本投資型」ネットワークが加わり、「東アジア華商ネットワーク」と共に、本格的な中華型「東アジアネットワーク市民」が誕生することとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度には、東アジア地域における移住とそれを通して作られた東アジア市民意識について、調査を行った。そのため研究会と学習会を総て11回、①東アジア共生文化研究会(於:熊本学園大学)を5回、②アジア共生学習会(於:新大久保)を6回、其々行った。 「東アジア共生文化研究会」では、主に韓国の関連小説と映像関連の討論会を、「新大久保アジア共生学習会」では、韓国を含めたアジアコミュニティーとまちづくりに関する討論会を主に行った。これらの研究会と学習会で検討された内容は、韓国の光州で行われた「世界人権都市フォーラム」(2016年7月)での討論発表(タイトル:「東アジア共生映画と東アジア共生の村生態系」)と、福岡で行われた(2017年2月)「韓国映画の窓から見たアジア」というタイトルの講演としてまとめられた。 特に、福岡の講演会では、ウズベキスタンにおける結婚移住と脱北移住を描いた韓国の映画『ウェディングキャンペーン』と、東南アジアから韓国への移住労働と韓国の非正規雇用労働を描いた映画『バンガバンガ』、フェアトレードによるアジア共生の道を探った映画『ヒマラヤのコーヒーロード』を分析した。特に、韓国の移住に伴う東アジア共生市民意識にフォーカスを合わせて探ってみた。 新大久保アジア共生学習会は、2016年11月に行われた「第3回新大久保映画祭」に合わせて、シンポジウム開催した。第3回新大久保映画祭では韓国、中国、ベトナム、ネパール等の商業映画と東アジア共生にフォーカスを合わせた映画が上映され、シンポジウムでは特に東アジア共生の問題をどうアジア共生生態系としてまとめられるかなどが検討された。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度には、(1)「東アジア市民意識」の変容の最終段階ともいえる「ネットワーク市民」段階について、より研究を進めていく。特に、韓国と東南アジアの華僑華人の「再中国化」現象による「類似市民」状態の解禁現象についての研究をより進展させる計画である。その他、すでに「居住国籍市民」になっている旧華僑華人と「中国系類似市民」である新華僑華人の物理的・精神的隙間と葛藤についての研究を行う。 (2)特に、韓国の映像文学の分析に重点を置いて研究を行う。ユク・サンヒョの映像『バンガバンガ』(2010)と台湾でのフィリピン人労働者をソファーに比喩して描いたウィ・ディン・ホーの映像『ピノイ・サンデー』(2009)を比較分析する。なお、カンボジアからの移住農業労働を描いたアン・チャンヨンの映像「ごはんなし・いえなし・うるさい・でていけ」(2012)とシンガポールの移住感情労働を描いたアンソニー・チェンの映像『いろいろ』(2013)なども共に、国民ではない東アジア市民としてのコミュニティーを考えている作品を考察する。それと共に、韓国におけるカンボジア出身の農業移住労働との比較を通して、東アジアの共生・協働コミュニティーの可能性を模索する。このような研究成果は、10月に行われる第8回目の「東アジア市民共生映画祭」と、シンポジウムや学会での発表などを通して完成度をより高めて行く。 (3)これまでの自分の研究成果と、共に討論会をしてきた方々の研究成果を翻訳し、編著形式の著書『東アジア市民共生と韓国(仮)』を出版する予定である。2016年度まで翻訳を終えた原稿と、新しく内容を補充した原稿の翻訳をすべて終え、2017年度中に出版を終える予定である。
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Causes of Carryover |
年度末の翻訳依頼により精算処理が間に合わなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
人件費・謝金の精算に充てる予定である。
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Research Products
(7 results)