2016 Fiscal Year Research-status Report
ヌートカ語における統語構造の特性―節と節結合の連関の中で
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15K02473
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中山 俊秀 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (70334448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 久美子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (40401426)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヌートカ語 / ワカシュ諸語 / 北米先住民言語 / 危機言語 / 節結合 / 節構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カナダの先住民言語であるヌートカ語における統語体系の特性を、「節」と「節結合」の構造的・意味機能的性質の精査を通して明らかにすることを目的とするものである。統語法研究の中ではしばしば節が中核的単位・ドメインとして位置づけられるが、ヌートカ語の統語法においては節の役割はかなり限定されており、それを補うために節結合(clause combining)が多用される。したがって、ヌートカ語における統語構造を解明する上では、単に節単位の統語法だけではなく、より広い、節と節結合の関係性の中でその構造を位置づける必要がある。そこで、本研究では、節と節結合を大きな統語的な構造形成ドメインとして統合的に捉え、その中でヌートカ語の統語法を捉え直すべく研究を進めている。 研究第2年度の平成28年度には、前年度に構築を始めた節及び節結合の用例データベースの拡充を進めた。データは、聞き取り調査で収集された作例に加え、ナラティブや会話を中心とした自然談話テキスト資料30編から抽出し、構造的特性および談話における意味・機能的特性に基づきコーディングした。データの抽出とデータベース化は概ね完了した。データベースはインターネット上の共有環境に構築しているため、研究代表者と研究分担者が常時オンラインで共同作業ができる体制にある。昨年度開始した節および節結合のタイプ分けについては、今年度拡充したデータに加えて、夏季に行った現地調査で得られた補足データを合わせて分析を進めることで、精緻化することができた。 以上の通り、研究活動は当初の計画通り順調に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究第2年度の平成28年度には、初年度に枠組みを構築した用例データベースのデータの本格的拡充を進めた。データは、聞き取り調査で集められた作例、及びナラティブや会話を中心とした自然談話テキスト資料30編から抽出した。抽出したデータはデータベースに適合した形式に加工し、構造的特性および談話における意味・機能的特性に基づきコーディングをおこなった。コーディングにおいては、以下の点に着目した:(1) 節については、内部構造上の特性(述語の意味カテゴリー、表現されている直接項の数、文法役割、位置)および談話の中での出現様態(単独か他の節との組み合わせか)と意味機能;(2) 節結合の用例について、構造的特性(結合順、節に付加できる接辞、並立・従属関係)、文構造の中での位置、および談話における分布と機能(談話の中での位置、意味機能)。 データベースの構築にあたっては、自然談話からのデータを多く含むことで、実際の言語使用における構造特性、文法パターンを捉えられるように努めた。これにより、作例や書き言葉を基盤に置いた伝統的な研究における節結合の性格付けが過度に構造化された偏ったものであることがわかってきた。自然談話の中では節間の結合はかなり緩やかで、その結合度は文脈や用法の影響を大きく受けるようであることが見えてきた。また、データベースの中で産出環境が異なるデータはそれぞれ分けて取り出せるようコードし、言語使用のモードやジャンル間の異なりも分析できるよう工夫したが、それにより、使用環境による節結合の分布のばらつきが見えてきた。 以上の通り、今年度の研究は順調に進捗し、また今年度の研究活動を通して、次年度の研究で焦点を当てるべき問題点も明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度となる平成29年度には、引き続きデータベースに用例を追加しつつ、ヌートカ語の節および節結合の特性と節-節結合の関係性について、データベースに基づき以下の諸側面に特に焦点を当て、そのパターンの記述を完成させる。 (1) 節および節結合のタイプ分けの完成:節については、内部構造上の特性および談話の中での出現様態と意味機能に関するタイプわけ;節結合については、構造的特性、文構造の中での位置、および談話における分布と機能に関するタイプわけ (2) 自然談話と作例における違い:今年度の研究の中で、節結合の構造や用法が作例や書き言葉などと自然談話の中ではかなり異なることが明らかになってきた。従来の研究の中で見過ごされてきたこうした差異の実態の性格な把握を進める。特に、自然談話の中で見られる節間の結合度の弱さは節結合に関する理論的議論にも大きな含みがある事実であるので、その意義について掘り下げた考察を進める。 (3) 談話ジャンル間の違い:同じ自然談話データであっても独和的ナラティブとより相互に働きかけが起こる会話では使われる統語構造に異なりが見られる。そこで、ジャンル間の節及び節結合の構造と分布のばらつきにどのような規則性があるかを探り、コミュニケーション環境が節及び節結合の構造形成と選択に及ぼす影響について考察を進める (4)「節」と「節連結」の間のオーバーラップに関する研究:論理的に同等の意味が節と節結合とで表現できるケースに関して用例を集め、節と節結合の間の構造選択パターンの分析を深め、節と節結合の意味機能上の役割分担のあり方を解明する。 本研究で進めるヌートカ語の節および節結合の特性と節-節結合の関係性について、英語とも対比させながら、理論的議論をまとめる。また、従来の「節」中心の統語法記述枠組みに代わる枠組みを提案する。
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Causes of Carryover |
前年度からの繰越金があったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
出席予定の国際学会が増加する予定であるため、その旅費に充当する予定である。
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[Presentation] Working with Conversational Data2017
Author(s)
Toshihide Nakayama
Organizer
Special lecture
Place of Presentation
Research Institute for Languages and Cultures of Asia, Mahidol University, Salaya, Thailand
Year and Date
2017-03-15 – 2017-03-15
Int'l Joint Research / Invited
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