2015 Fiscal Year Research-status Report
主節現象の統合的説明に向けた研究:話題化構文を中心に
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15K02488
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00347519)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 題目 / 対照主題 / 場面設定主題 / 介在効果 / 認識的モダリティ / 従属節 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の作業の中心は、話題要素の出現環境および主節指向性の差異を精査することであった。年度前半には分析対象とする話題要素のリストを作成して類別を行った。その上で、題目(aboutness topic)と対照主題(contrastive topic)、および状況設定主題(scene-setting topic)の分布の違いを調査した。 この作業と並行して、年度後半の作業に備えて、従属節の類別およびそれらの文法的特徴の整理を行った。Hooper and Thompson (1973)が試みた英語の補部節の分類が日本語にそのままあてはめられるか否かを検証した。付加詞節については、英語の分類がそのまま日本語には当てはまらないことが多いので、日本語特有の構文については、日本語の記述的研究の成果を利用しつつ、日本語の実体に即した現象の整理を試みた。 年度の後半には、上述の類別に基づいて次の二点に関して調査を行った:(1)異なるタイプの従属節にどの話題要素が出現しうるか、(2)異なるタイプの話題要素同士がどのようなパターンで共起するか。補部節に関しては発話思考動詞の補部節と叙実動詞の補部節を、修飾節に関しては名詞修飾節(関係節と時・場所名詞を修飾する節)と副詞節(条件節と理由節)をテスト環境に選び、それぞれの環境で題目・対照・場面設定の三種類の話題要素が生起するパターンを調査した。 さらに、次年度への橋渡し的作業として、認識的モダリティと介在効果が話題化に与える影響について考察した。特に、話題要素と認識的モダリティ要素が同一の節内に生起しない場合に話題化が可能になるか否かについて、補部節・修飾節それぞれの環境でテストした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成目標として掲げたのは次の作業である:話題要素の分類、従属節の分類。当該年度ではこの作業を完了させることができただけでなく、この二つの分類を交差させて、どのタイプの話題要素がどのタイプの従属節に生起できるかを調査し、出現のパターンを明らかにすることができた。 この調査を発展させる形で、話題要素が演算子および他の話題要素とどの程度干渉しあうのかを調べたところ、話題要素ごとに異なる素性構成を持つこと、そしてこれが分布パターンの違いを部分的にもたらしていることが判明した。この点は当該年度の研究の主要な成果の一つである。この成果を平成27年8月にソウルで行われた Seoul International Conference on Generative Grammar で発表し、論文にまとめることができた。 もう一つの成果は、題目と認識的モダリティの相関関係について、次年度につながる内容の研究ができたことである。当初両者が同一節内に現れるパターンのみに注目していたが、研究の過程で提示した仮説によると、別々の節に分散していても、一定の条件の下で(話題要素が認識的モダリティよりも上位に位置する場合に)限って話題化が可能になるという予測が成り立つことに気づき、年度の後半にかけてその予測の当否を検証する作業を行った結果、問題の予測が正しいことが判明した。この点も当該年度の研究の主要な成果である。この成果の一部を平成28年2月に三重大学で行われた Formal Approaches to Japanese Linguistics で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画に沿って研究を進める予定である。平成28年度の研究目標は、話題要素の分布に課せられる文法的制約を解明することである。前年度の研究結果を基に、話題化の可否に影響を与え得る文法的制約には(1)話題要素を擁する階層の有無、(2)演算子移動が関係する介在効果の有無、そして(3)認識的モダリティ要素との一致関係の有無の三つがあると仮定し、それぞれの制約の働き方および相互関係を明らかにしてゆく。具体的には、制約(1)が制約(2)および(3)から導出可能であること、そして(1)を独立した文法原理として想定する必要がないことを立証することが、本年度の研究の中心的な課題である。 さらに、今年度の研究では、主節現象の認可を制限する要因をめぐる言語間の差異も視野に入れた研究を行う。前年度の研究で、日本語の題目要素の認可には認識的モダリティが深く関与していることが明らかになった。一方、本研究者による予備調査によると、英語の題目要素は認識的モダリティ要素による直接的な認可を要求するのではなく、むしろ演算子移動を伴う介在効果の有無が認可条件として働くことが分かっている。本年度は、この日英差を原理的に説明することを目指す。現在のところ、「節の周縁部における階層の出現を決定する際に、日本語では主要部間関係が主要な役割を果たすのに対して、英語では句範疇要素の移動がそれに相当する機能を果たす」との仮説を立てている。これを検証するにあたり、節の周縁部に生起する話題要素以外の要素(たとえば話者指向副詞)の分布に関して日本語と英語を比較することを予定している。
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Causes of Carryover |
平成27年度には当初予定していた研究費を概ね消費したが、当初予定していたパソコンの購入を見送ったことや、謝金・人件費の支出がなかったことなどから、次年度使用額となる未消費が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度には前年度と同様、理論言語学関連の学会や研究会に出席して成果発表を行うとともに、最新の統語理論に関する情報収集を行う。そのため、発表用資料の作成および学会出張に充当する支出が見込まれる。本年度の研究計画の一部である文献調査のために、理論言語学関連の図書を購入する。また、昨年度見送ったパソコンおよび周辺機器の購入も予定している。
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Research Products
(4 results)