2016 Fiscal Year Research-status Report
主節現象の統合的説明に向けた研究:話題化構文を中心に
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15K02488
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00347519)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 主節現象 / 話題化 / 演算子移動 / 認識的モダリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究の中心は,従属節における話題化の適用可能性を左右する文法的制約を発見し,その作用のしかたを解明することであった。次の3つの制約を検討した:(1)認識的モダリティとの共起関係のあり方,(2)演算子移動が関与する介在効果の有無,(3)話題要素を擁する階層の有無。 (1)について。この問題については昨年度末から取り組み始め,通常話題化を許容しない従属節でも,話題化を許容するタイプの従属節をその内部に包含している場合に限って,話題要素の生起を許容することがあることを発見した。年度初頭には,この構造関係が極小主義生成理論における探査子・目標関係に還元できることを立証し、その成果を米国 Central Connecticut State University で開催された学会で発表した。 (2)について。従属節に生起できる文副詞の種類と階層を調べることによって,演算子移動による介在効果の有無とその起こり方を明らかにした。その結果,英語では演算子移動の影響があるのに対し,日本語ではその影響が見られず,文副詞の分布は副詞が付加する投射の主要部との呼応関係によって決定されることが判明した。この研究結果を韓国西江大学で開催された 学会で発表した。 (3)について。統語派生のサイクルとなる位相としての資格の有無という観点から話題化を許す補部節と許さない補部節の構造を比較した結果,前者が完全な構造を持ちかつ位相となるのに対して,不完全な構造しか持たない後者は位相にならないことが判明した。この研究成果をベルギーで開催された学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に研究対象として予定していた課題は以下の3つである。(1)認識的モダリティと話題要素の共起関係のあり方を明らかにすること,(2)話題化が阻止される環境で演算子移動が関与する介在効果があるか否かを明らかにすること,(3)節ごとに話題要素を擁する階層の有無を確認すること。これら全ての課題について当該年度中に研究成果をあげることができ,さらにそれを各種学会で発表することができた。 (1)は昨年度末より研究に着手していたこともあり,当初の計画よりも早い段階で結果を出すことができた。そのため,(2)と(3)への取り組みに多くの時間と労力を割くことが可能になった。こうした余裕が生まれたので,(2)については話題化要素以外の要素(例えば話者指向副詞)の分布にも対象を広げられ,結果として分析の一般性を増進させるのに役立つこととなった。同様に,(3)についても考察対象を広げることができた。当初は節の周縁部分の階層構造のみを考察対象としていたが,当該領域を形成する階層が統語派生サイクルである位相になりうるか否かという新たな視点から問題を捉え直す機会が得られた。 以上の理由から,現時点において,当初の計画に従って研究を遂行できていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画に沿う形で主節指向性の強弱をもたらす要因の特定に向けた研究を進める予定である。話し手から聞き手への発話伝達様式を文法化する階層(発話行為句)を想定する分析の効果を検証する。具体的には、この分析によって異なる主節指向性を持つ現象がどの程度説明できるかを精査する。 この課題に加えて,これまでの研究の過程で得られた成果をさらに深化させることも試みる。具体的には,従属節のタイプによって包含される階層の数と種類が異なることを,単に規則として述べるのではなく,一般性の高い原理から導出することを目指す。 平成28年度は話題要素の生起が認識的モダリティ要素との c-統御関係によって予測できることを立証した。これは節タイプごとに話題化階層の有無を指定する規則を立てる必要がなく、文法規則が簡略化できることを示したものである。文の周縁部に属する他の階層の有無もこれと同様に他の原理から導き出せるか否かを試すのが今後の課題である。この課題に取り組む具体的な方策としては,構造構築の妥当性を保証する仕組みとして近年論じられているラベル付け演算のメカニズムによって文の周縁部の階層構造のあり方を解明する可能性を探ることを考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年度に当初予定していた研究費は500,000円であったが,12月のベルギー出張の前に既にほぼ消費してしまっていたため,300,000円分の前倒し支払い請求を行った。ベルギーの出張経費が見込みよりも少なかったため,次年度使用額となる未消費が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には理論言語学関連の学会や研究会に出席して成果発表を行うとともに,それを論文にまとめる作業を行う。学会出張のための旅費および発表資料の作成費に充当する支出,および論文執筆に必要な書籍の購入による支出が見込まれる。
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Research Products
(4 results)