2016 Fiscal Year Research-status Report
広東語の文末助詞の文法化経路と意味変化メカニズム―名詞化標識や間投詞からの文法化
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15K02498
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
飯田 真紀 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50401427)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 広東語 / 文法化 / 意味変化 / 名詞化 / 文末助詞 / 終助詞 / 間投詞 / 語用論 |
Outline of Annual Research Achievements |
まずは本研究課題のテーマである文末助詞の文法化・意味変化について、以下のような事例分析を行った。 1つは文末助詞ge2に見られる2つの意味、すなわち<反予期>から<反駁>への意味変化について、本研究課題で作成したコーパスを使用し、どういう文脈で新たな意味が含意として生じたのか、語用論的推論の役割に着目しながら明らかにした。その結果、話し手が予期を形成する際に他人の発言や行為の影響を受けている文脈で、反駁の含意が生じやすいことがわかった。この成果は第17期 中山大学語言学沙龍で発表しフィードバックを得た。 もう1つは、別の文末助詞であるaa1maa3の意味変化の考察である。まずはこの文末助詞に<自明命題伝達>、<正解確認>、<確約取り付け>の3つの意味を区別すべきことを見出した。次にどのような順序でどういった文脈で意味変化を遂げたのか、コーパスデータを精査し、語用論的推論の役割に着目しながら分析した。その結果、命題が聞き手の方が正確に知り得るような事態である場合、aa1maa3の意味は<自明命題伝達>を離れ、聞き手に同意認定を仰ぐ<正解確認>の含意が出やすくなること、また、聞き手の発話場の言動を換言し<正解確認>を行う場合、<確約取り付け>の含意が生じやすいことがわかった。これらの成果は日本言語学会第153回大会で発表しフィードバックを得た。 上記のような事例分析のほかに、広東語と日本語における文末助詞という文法カテゴリー特有の機能やこのカテゴリーの通言語的な視野からの位置付けについて、いわゆる「終助詞」(文末位置に生起する各種の手続き的意味を担う言語形式)をめぐる近年の言語横断的研究を参照しつつ再検討した。また、広東語と日本語における文末助詞の文法化経路の異同についても、初歩的な言語対照を行った。(香港大学、北海道大学でのシンポジウム、及び第18期 中山大学語言学沙龍)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は文末助詞の文法化経路及び意味変化を検討する目的を持っており、具体的には名詞化標識ge3に由来するものと間投詞(感動詞)に由来するものとを主な考察対象に設定した。このうち、前者の形式群ge2、gE2、ge3については予定通り順調に分析が進んでいる。他方、後者の形式群については、現在、コーパスデータを精査し、対象となる文末形式の絞り込みを進めている段階である。 また、既に文末助詞となり複数の意味を発達させている多義的形式については、意味変化プロセスの詳細を跡付けることも研究課題の目的の1つとしていたが、こちらの方の研究が当初予定以上に進展した。これは勤務先において言語学専攻の研究者により立ち上げられた、文末助詞や談話標識のような手続き的意味を専ら有する言語形式の文法化・意味変化をめぐる共同研究に参画したことで、広東語のみならず様々な言語について、通言語的視野から頻繁に討議する環境が得られたことが大きい。 他方で、昨年度と同様、分析用の広東語言語データのコーパス構築はやや遅れている。コーパス用に適した広東語の書面資料の入手及びコーパスの整形作業に従事できる広東語母語話者の人員確保に依然として苦労しているのがその理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、遅れが目立つコーパス整備作業を補いつつ、28年度で行った2つの文末助詞(ge2とaa1maa3 )の意味変化に関する考察を論文にまとめ投稿する。次に、名詞化標識ge3に由来する文末助詞ge3の意味分析を行った上で、その文法化プロセスの詳細を検討する。 また、直示的間投詞(感動詞)ne1,ne2と文末助詞ne1,ne2との関連、文法化の様相についても考察を行う。 28年度と同様、考察の中途で小規模な研究会を開き、進捗状況を報告し、フィードバックを得るほか、研究最終年度である29年度には本研究課題の総まとめとなる論文あるいは書籍の刊行に注力する。
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Causes of Carryover |
コーパス用に適した広東語の書面資料(小説・ドラマシナリオなど)を、香港への渡航の際に探し当てることができなかったことから、コーパス構築が予定していた通りには進んでいないことが大きな原因である。 また、音声資料コーパスの整形作業も予定していたが、そのために必要な広東語母語話者が、現在、研究代表者の周辺で定期的に確保できる状況にはないため、進展がおもわしくない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まずは広東語の言語データ提供、および音声資料のコーパス構築作業に日常的に協力できる母語話者の確保に努め、謝金やその他の費目による支払いを済ませる。そのほか、広東語使用地域における言語データ収集調査の割合を増やすようにする。 また、コーパス用に適した広東語資料を見つけるため、それが入手できる香港に渡航する。コーパス用資料が入手でき次第、データ入力会社に電子化を依頼し、その対価をその他の費目から支払う。
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