2017 Fiscal Year Research-status Report
言語類型論の視点からみた日本語史の項表示の変遷:通時コーパスを利用した実証研究
Project/Area Number |
15K02502
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柳田 優子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20243818)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 活格 / 主格 / 心理述語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国立国語研究所「日本語歴史コーパス」を使い、上代日本語から近世日本語までの主語表示「が」の変遷について調査をした。上代日本語の格助詞「が」は属格として、動作主性の高い、人称代名詞、特定の人間主語を表示し、動作主性の低い、無生物主語などはゼロ格で表示される。中古日本語でも、その分布は変わらないが、上代では「が」で表示されていた名詞が、中古では「ノ」でも表示されるようになり、「が」の使用頻度は激減する。しかし、16世紀後半以降、「が」の使用頻度が再び増大する。興味深いことは、16世紀以降の「が」の使用範囲が、上代日本語とは逆に、「雨が降る」「花が咲く」などの非人間、非動作動詞に多用されるようになったことである。こうした「が」の変化がなぜ、どのように起こったのかを言語類型論の観点から議論し、2017年8月にテキサス大学で行われた、歴史言語学会で発表した。心理・使役交代(Psych causative alternation)が「が」の主格への変化に大きく関与している可能性を指摘した。論文は大幅に改訂して現在、「格システムの変化」の特集号として出版するために、言語の歴史変化に関する他の論文とともに査読を受けているところである。
また、本年度は、言語類型論、生成文法論の「言語の普遍性」から英語の語順の変化と日本語の語順の変化、接語代名詞の消失、構造簡略化などの、共通する歴史変化を取り上げ、著書(分担)『歴史言語学』にまとめて、出版した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
歴史コーパスによる調査に時間がかかっているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
言語類型論の観点から、多くの言語で、格システムの変化はヴォイス(Voice)の交代がトリガーになることが観察されている。ヴォイスの交代には使役・反使役(causative-anticausative alternation)の交代も含む。本年度の予定は、言語類型論の観点から上代語のヴォイスについて研究をすすめる。とくに、上代語の使役、反使役交代が、心理動詞の経験主の主語と目的語の交代(Psych SE/OE alternation)と共通する点が多く、日本語には心理・使役交代があったことを議論し、この交代が、「が」の主格としての発展に大きく関与していることを示す。
|
Causes of Carryover |
前年度業務多忙のため、研究の遅れが生じ、残額が生じたため。本年度は9月にコーパスに関する国際学会で招待発表があるため、その準備のために、図書、パソコン機器、出張のための交通費、宿泊費などに、残額を使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)