2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K02507
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉枝 聡子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (20313273)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イラン諸語 / パミール諸語 / ワヒー語 / 東イラン語 / ゴジャール / フンザ / 少数言語 / 記述言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年7月~9月にパキスタンにおいて,ゴジャール・ワヒー語に関する言語調査を行った。具体的な作業内容は以下の通りである: 1.ゴジャール・ワヒー語主要村落のうち,グルミットおよびシスーニー村出身のインフォーマントの協力を得て,同言語の文法分析に関する調査を実施した。今年度は,その使用や用法の概要が確定しておらず,またウルドゥー語との言語接触の影響が推測される関係節構文を主な対象として,インフォーマントへの聞き取り調査により,関連文例を含む言語データを収集した。 2.現在出版準備を進めているワヒー語辞書について,語彙チェック,用例確認,新語彙の収集作業を実施した。あわせて,ワヒー語辞書に掲載予定の写真と語彙の照合作業等の作業も引き続き行った。 3.調査終了後,収集済みの言語データやテキストの分析,さらに語彙・画像データの整理など,成果のとりまとめを行った。 4.文法分析に関して今回得られた成果より,同言語の関係節構文の構造とその使用実態について学術論文を作成する(東京外国語大学論集,原稿提出済)など,研究成果の公開に務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,研究課題である「ゴジャール・ワヒー語記述文法書」作成にあたって調査を予定している文法事象のうち,関係節構文を中心に,現地インフォーマント調査によって言語データを予定通り収集した。調査終了後の収集済データの分析・検討の結果,同言語における関係節構文について,関係節化形成にに関わる複数のパターンとトピック化に伴うバリエーションを確認し,その類型論的位置づけを行った。これらの関係節形成パターンのうち,その構造から「主要部内在型」と考えられる関係節タイプは,これまで同言語については未報告の,新たな関係節形成タイプであること,またこれは,近年のフンザ・ゴジャール地域における政治変動と言語環境の変化により影響を増してきた,ウルドゥー語の関係節構文からの一種の翻訳借用によるものと考えられることが明らかとなった。これはタジク側ワヒー語では確認されておらず,興味深い文法現象といえる。さらに,同言語の関係節構文では,関係節内に複数の要素が存在する場合,主節がとる相関的構文において,これらの要素に対する認知度が大きな影響を及ぼしており,しばしば相関詞の標示対象が交錯する(相関詞が関係節の主要部以外の対象を標示する)場合があること,またこのような相関的構文上の特性が,同言語の関係節構文の用法上・使用上の混乱を引き起こしていことも明らかとなった。上記に述べた成果の詳細は,学術論文としてとりまとめ,学術論文として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を予定しているゴジャール・ワヒー語の記述文法書の完成に向けて,適宜現地インフォーマント調査と調査データのとりまとめ・分析を行い,研究成果の発表を行いながら記述・作成作業を進める。 具体的には,来年度以降も引き続き,現地調査(主に夏期)を実施し,分析対象となる言語資料の収集を行う。今後は特に,なお未解明の文法事象(前置詞+指示詞の縮約形,指示詞や空間認識関連語彙の用法,接続詞の用法等)や統語論面での分析を中心に,関連する言語データの収集を行い,分析を実施していく予定である。また上記に並行して,当該言語の語彙についても引き続き収集・確認作業を進める。 ゴジャール・ワヒー語は,タジキスタン側に分布するタジク・ワヒー語との間に,恐らくは背景にある言語環境上の理由から,一定の文法上・語彙上の相違が存在することが確認されている。今後はこの点についても考察すべく,可能であれば来年度以降に,現地情勢の推移を見極めながら,タジキスタン側の調査も行いたいと考えている。
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